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5

小綺麗な居酒屋の個室で三久は勢いよく音頭をとった。


「んでは、サクラっちの退院を祝してかんぱーい!」


桜子、九条、悠二たちも三久に倣ってグラスを掲げた。


桜子が急に退院した事を知った三久は会いたいと言い、三久の兄である悠二も退院祝いに駆けつけてくれた。


背が高く、垢抜けた遊び人のような風情を醸しだしている。


三久曰く、歩く下半身男だそうだ。


桜子にとって九条を始め、この兄妹も命の恩人であった。

 

「いや〜。ようやく桜子ちゃんに会えたよ。ほんと無事に目を覚ましてくれて良かった。その後の身体の調子は大丈夫なのか?」


「はい、おかげさまで。ただ眠気がくると3秒ほどで眠りに入って、一度寝入ったらなかなか起きられなくなったくらいです」


「へー。の⚪︎太君みたいだな」


悠二が何気に突っ込むと、三久は悠二の腹にパンチをきめた。


九条はゴホン、と咳払いをすると、


「それより、また桜子さんとこうしてお会いできて本当に嬉しく思います。今日も無理しないよう楽しみましょう」


3年ぶりの再会だが九条は相変わらずだった。


薄茶の短髪に、人の良さそうな顔つきの偉丈夫である。


「ああ、それと、実はもう1人参加したい方がいらっしゃって……。ずっと桜子さんの事を心配していた方なのですが……」


「え?ええ。構いませんが、どなたでしょう?」


桜子の知り合いなんて限られている。


以前の職場でさえ、プライベートで会うほど仲のいい人物はいなかった。


「それが……本人がサプライズで会いたいと仰っていたので。今はお教えできなくてすみません」


まさか唯人だろうか、と思ったが、唯人ではないですよ、と桜子の思考を読んだように九条は苦笑して言う。


「あのバカは当分帰ってこないさ。へっ、ざまぁねーな」


「皆さんは唯人さんとは昔からのお知り合いなのですか?」


「桜子さんには私たちの関係性を話していませんでしたね。おそらく唯人も話す暇はなかったと思います」


九条はそう言うと、自分たちの関係性や唯人との出会いを語った。


九条と登坂兄妹は親同士の親交があったので、生まれた時からの付き合いだと言い、唯人は三久の通っていた小学校に転校してきたのがきっかけだそうだ。


「わたしよりあいつの方が1個上なんだけど、まぁ、あの見た目だからすぐに有名人だったわね。でもいつも1人でいることを好んでいたかな。偶然あいつがダイレクト型仮想世界のゲーム制作してるって知って。おにぃたちもサークル作って自分たちのゲーム制作してたから、唯人君におにぃたちを引き合わせてみたの」


まだ高校生であった九条たちサークル仲間も同じようなファンタジーゲームを制作していたが、唯人が制作していたものの方が明らかに技術が上だった。


その頃の唯人は礼儀正しい純粋な少年で、九条らと知り合えたことを心底嬉しそうにしていた。


同年代の子供とは話が合わなかった唯人にとって、九条らとの出会いはまさに幸運なことであったから。


唯人は九条たち制作チームに加えて欲しいと熱心に訴えると、九条は唯人の熱意や才能に惹かれ、制作チームに加えることにした。


それから唯人の作ったデータを基盤にさらに改良を加え、その後、九条と悠二は高校を卒業と同時に自身の会社を立ち上げた。


その頃の唯人はまだ中学生だったため、彼が高校を卒業してから迎えるつもりだった。

 

しかし――

 

「けど、前DIUコーポレーションに因縁をつけられ潰されそうになってよ、一宇は少しでも権利を持っていかれないよう仕方なく取引きに応じたんだ。けど、唯人の奴が――」


悠二は未だ当時のことに怒りがあるのか、唯人への不満を露わにした。


「唯人君が(いち)(にぃ)に殴りかかった時、おにぃが仲裁に入ったんだけど逆に入院送りにされちゃったのよね」


「うっ。あれは不意打ちを喰らってやられただけだ。――まあ、唯人とはそれっきりさ。あいつはグレて不良少年になって、それから引きこもりニートになったわけ」


まあ、と九条が口を挟む。


「全ては過ぎ去ったことです。今はもう腐敗した上役たちもいなくなり、会社も新体制になって上向きになりました。今の会長のおかげで」


「そうそう。あの女ボスの手腕はすげーぞ。あの状態から会社を立て直すなんてやっぱり――」


「あら、本人の居ないところで褒めてくれるなんて嬉しいわね」


突然、女の声が扉の外から聞こえ、扉から現れたのは肉欲的な美女であった。


「あれ?フレ(ねぇ)、来るの早かったね〜。桜っち、フレ姉はね唯人君のお姉様なんだよ〜」


三久が暢気に紹介する一方、桜子はぎょっとして固まった。


――今なんて……?


「うふふ、初めまして。桜子ちゃん。私のことはフレアと呼んでね」


そう言った直後、フレアは桜子の両手をぎゅっと握り目を輝かせた。


「それと唯人とのご結婚おめでとう。こんな綺麗な義妹が出来て嬉しいわ。これから仲良くしましょうね」


「ええええええええ?!」


「嘘だろ?!」


三久と悠二が驚愕の声を上げた。


「あ、はい……。ご挨拶が遅れて、すみませんでした」


――話と違う!!


勘当された身だと唯人は言っていた。


桜子は突然の義姉との対面に顔が引きつり気絶しそうになった。


「桜っち!なんで結婚報告してくれなかったのさ!」


「そうだぜ?――って一宇、お前驚いてない様子ってことは、知ってたのか?」


「ああ、会長から聞く機会があったからな」


「ふふ。それより唯人との出会いから結婚までの馴れ初めを聞かせてくれない?あいつなーんにも教えてくれないんだもの」


フレアは面白そうに訊ねた。


無論、三久たちも同様に。


「えーっと、ですね……」


桜子は決まりが悪い状況で馴れ初めを話す羽目になった。


唯人との初対面は最悪だったこと。


お互いの目的の為行動を共にするうちに打ち解けていったこと。


そしてゲーム内で告白され、現実世界で結婚の約束をし、目覚めたらプロポーズされ――そして――


「それ、すんごい斬新なんらけどぉ??うっひゃー!人生の一代イベントをゲームにするなんてぇ、やっぱ天才様はやることが違うわぁー」


三久は呂律が回っていない口調で驚き、フレアは何十杯目かのワインを飲みながら、


「ほんとね。結婚っていうゲームを持ちかけるなんて我が弟ながら――呆れた奴だわ」


「あいつはそういうイカれた奴さ。そもそもゲロかけられた直後にプロポーズするか、ふつーぅ?」


悠二の言葉に桜子と元凶の三久がどんより落ち込むと、悠二は慌てて失言を撤回した。


「い、いや、美女からゲロかけられるってのも興奮するものがあったのかもしれない」


「どんな変態よ……」


三久の突っ込みのあと、九条は軽く咳払いをした。


「ゴホン。――何はともあれ、唯人は当分いないのだから桜子さんはゆっくり養生して下さい」


「ありがとう、ございます」


その後も賑やかに酒の席は続いた。


フレアは義弟たちがかりそめ夫婦という関係だと知っても気を悪くするどころか、とても好意的に桜子に接した。


悠二などは3年経てば離婚した方がいいぜ、と彼らしい助言をし、三久は完全に酔っ払っているのか、ごにょごにょと――


「いや〜。オタク男子のような桜っちが本当に男だったら唯人君との展開、胸キュンだったのになぁ、ヌフフ……ヌフフフ」


などと、胸に秘めていたお花畑の想像を口にしていた。


当の桜子は聞こえないふりをしたが、これを聞いたフレアはずっと気になっていたのだろうか、桜子をじっと見つめて言った。


「ああ、だからね。オタク男子のような見た目だったから、そんな似合わない格好しているの?」


桜子の今の格好は、ジーンズに“健康第一“とプリントされたトレーナーだった。


昏睡状態から目覚めた桜子は、長いストレート黒髪の和風美人である。


はっきり言って似合っていない。


昏睡状態になる前までは社畜人生だったうえ服にも無頓着だったせいか、桜子の私服はかなり少なかった。


冬服はこれしか持っていないと桜子が言うと、フレアはロシア語で「信じられない!」と甲高く叫ぶ。


「桜子ちゃん、今度服をプレゼントさせてもらっていいかしら?何なら一緒にショッピングでも行きましょう!ね?」


「い、いえいえ。フレアさんもお忙しいでしょうし――「あ、わたしも~。参加したーい!」」


2人の会話に三久が手を上げて加わった。


「いや〜、わたしも桜っちを改造したいってぇ、ずっと思ってたのよねぇ。そんで、いつかは私が作ったコスプレ衣装を……。ぐふふふふ」


想像をしては不気味に笑う三久。


「けどボス、ほんとに仕事の方は大丈夫なのか?あれだけ忙しく動いていたってのに……」


悠二の言葉にフレアは両手に顎を乗せ、綺麗な口端を上げた。


「だから『代理』に頑張ってもらってるんじゃない。今まで散々好き勝手されてたんだから。これくらいは、ねぇ?」


ふふふ、と意味深に笑うと、悠二もニヤリとあくどい笑みを浮かべた。


桜子と九条は何とも言えない表情をし、三久は我関せずと流したのであった。

お読みくださりありがとうございます( ´ ▽ ` )

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