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桜子は『あの日』以来、面会謝絶にしてもらっていた。
”見知らぬ男”とはそれ以来会っていない。
この病室での出来事を聞いた三久は、電話口で泣きながら謝罪をしてきた。
『わたしがあげたお弁当のせいで本当にごめんなさいぃぃぃ』
桜子は何も考えず食べた自分が悪いと慰め何とか三久を宥めると、今度は面会に来た”見知らぬ男”について訊ねる。
すると――
『えー!リアルで一度も会っていなかったの?!あいつは『月乃唯人』だよ。あの“ユエ”だよ〜!』
その名を聞いて桜子は3年間眠っていた事実より衝撃を受けた。
なぜなら桜子が知っているユエは『女』アバターで、中身も女だとずっと思い込んでいたのだから。
この『ユーワールド』というゲームは、一度作成されたアバターは二度と変更出来ず、性別はリアルに高確率で影響される。
男女逆転になることは稀であった。
そんな桜子も”男アバター”だったわけなので、2人して性別が逆転していたのだ。
月乃唯人――『ユエ』とは、2年ほどゲームで行動を共にしていた『ユー友』だった。
桜子がゲームを引退する時、彼女に告白された。
しかし桜子は“ユエ“に対して恋愛感情を抱いたことはなかった。
なにしろ自分の中身が“女”だという理由以上に、ゲームの世界では演じていたのだ。
当然、告白を受け入れられなかった。
しかし、桜子が断るより先に、ユエはさらにとんでもないことを言った。
『もし、もし現実世界でお会いできることがあったら、その時は――結婚してくれませんか?』
無理な願いだった――。
このままログアウトしたらゲームを引退する。
現実世界で会ったこともないうえ、連絡先の交換もしていないというのに、いきなり結婚ときた。
何しろリアルの自分は“女”なのだから、彼女と結婚なんてできない。
だが、あの気位の高いユエが、涙を流している姿に心が揺れた。
最後くらい笑顔で別れたいと――。
『分かった。もし、会えたら結婚しよう』
そう口をついてしまった。
その後、ログアウトすれば3年の月日が経っていて、もう二度と会うことがないと思っていた彼女が現れ、しかも『男』だったというオチではないか。
お互いゲームで自分を偽っていたのか、と桜子は感慨深く思うのと同時に、見知らぬ男が求婚してきた理由がようやく分かった。
――けれど、どうやって私のことを知ったのだろう?
『あ、それとね、ちょっとサクラっちと話したいって人がいて、一にぃ――“九条一宇“って人なんだけど……』
『……!』
九条一宇と三久の口から出た名前に驚く桜子。
彼とは以前の仕事関係で知り合い、意気投合すると、後にユーワールドでも交流を持った。
長身の整った容姿で、年齢の割に物腰が柔らかい好青年の男性である。
『詳しい事は一兄から聞いて』
知り合いだったのだろうか、と桜子は思いながら了承すると、電話口から懐かしい声が語りかけてきた。
『お久しぶりです。桜子さん』
「お久しぶりです。なぜ九条さんが……?」
桜子も掠れた声で挨拶を返しながら、三久と知り合いだったことについて訊ねると、九条は自分の素性から事の経緯まで全て話してくれた。
九条は桜子がプレイしていたユーワールドのゲーム会社、DIUコーポレーションの開発責任者であった。
桜子を襲った犯人――『不正アクセス者』を追っていたそうで、その濃厚容疑者として最も浮上したのが、あの月乃唯人だった。
そのため、犯行の可能性が高い唯人を監視することになり、彼に関与している人物たちの身辺調査をすることになったそうだ。
唯人と急接近した桜子にも――。
「だから私に近づいたんですね?」
「……はい。騙す形になってしまい申し訳ありません」
しかし、実際の犯人は唯人のストーカー女だった。
現行犯逮捕に成功はしたものの、連行される際に自害してしまったが――。
この事件をきっかけに警察はDIUコーポレーションの立ち入り調査を本格的に始めると、上役たちの不正等が発覚し株価は暴落。
最終的にDIUコーポレーションは買収されることになってしまったが、今では新たな新体制のもと復活を遂げた。
皮肉にもこの事件のおかげであらゆる因果が浄化されたのである。
ここまでの話を聞いた桜子は、
「――えっと、つまり……私って……とばっちり受けてこうなったってこと……ですか?」
『本当に心苦しいのですが……はい……』
九条は重々しく答え、何度も謝罪したのだった。
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