1-1 悪役令嬢ってたいてい公爵令嬢
私は悪役令嬢かもしれないし、そうではないかもしれない
私には前世の記憶がある
この「なろう令嬢もの」のような貴族の家に生まれ
物心がつき始めてそう思うようになった
赤子の頃は脳が発達しておらず、「違和感」としか思えなかったものが
こうして自我が芽生えたことで、そう感じれるようになったのだと思う
そう考えると私は「前世の私」ではなく
「今世の私」に前世の記憶があるだけの私なのだろうと思える
「小さなお嬢様、また物思いにふけってますねぇ」
お付きの侍女?メイド?が不思議がるように私をのぞき込む
「お嬢様くらいの子はもっとはしゃぎまわったりするのに、うちの妹や親戚の子も」
なるほど、私の年頃の子供はもっと活発なのか、
そう考えると前世の記憶は大いに私に影響してるといえる
「いやでも、大人しい子は大人しいって聞くしなぁ。私は楽でいいけど」
「でも私みたいなちゃらんぽらんな奴に公爵家の大切な御息女をみさせるのはどうかと思いますよね」
「そこんとこどう思いますお嬢様」
「それは、リィルが私に一番歳が近くて明るい性格だからでしょう。お父様もお母様もお世話というよりお友達のような関係を期待してると思うの。私あまり活発な子じゃないし」
両頬をつままれる
「もぉ~、お嬢様は。こんな天使様みたいに可愛らしいのにおませすぎますよ」
ウリウリと頬を弄ばれる
「末は国一の才女さまですかねぇ。歳の近い第一王子様もご聡明だと言われてますし
未来の賢王賢妃で国はあんたいですねぇ~」
なおも頬を弄ばれながら私は再び物思いにふける
悪役令嬢かもしれないし、そうではないかもしれないというのは
なろう令嬢もので一番大切な有利要素「乙女ゲームの記憶」がないためである
本来のなろう定形であれば、前世の記憶を自覚したこのあたりで
(あの、○○というゲームの△△になっている!?)と判明して
この先の破滅の未来を知っているため、奔走したりするはずなのだが
私にはそれがないため、私が何なのかまったくわからない
それなのに悪役令嬢かもしれないと怪しむのは「悪役令嬢もの」の「なろう小説」を読んでいたからだ
だからこそ「公爵令嬢」という90%越えの悪役令嬢っぽい立ち位置に危惧しているわけである
都合よく婚約破棄相手になりそうな王子も年齢が近い
だからと言って、未来はわからない、回避方法もわからない、何もわからない
ここが世界破滅の危機にあるような世界なのか、単に私が破滅するような世界なのかもわからない、何もわからない
「おじょうさま~、ほっぺたのびちゃいますよ~」
能天気そうな侍女が笑いながら頬を弄び続ける
つられて笑ってしまう
「えふぇふぇふぁふぁ」
「あ~、お嬢様かわいい~、国イチかわいい~」
考えたところでわからないのだ、貴族として精一杯生きていくしかいない