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外道勇者の華麗なる旅路  作者: 雪道棗
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罪と罰と俺様 前篇

ジャルバーンを始めとする横領疑惑のある貴族達は戸惑っていた。

昨日の夜、王族権限で急に集まることを命じられたのだ。

始めはなんだろうか?と軽く考えていたが、この部屋に入った瞬間、悪寒を感じた。

それもそうだろう。

何故なら、そこにいるのは見慣れた顔ばかりなのだから…。


「ジャンバール様…。これは一体どうなってるんでしょうか?」

「我にも分からん…」


顔を青くして寄ってくる子爵の男をジャルバーンは冷たく突き放す。


「しかし…」

「黙っておれ!!」

「………」


その声は大きく、男だけでなく、周囲でざわめいていた貴族達も黙った。

皆が皆、ジャルバーンに自信なさげに、しかし非難めいた視線を浴びせかける。


――――どうしてこんなことに…。


ジャルバーン以外の貴族は誰もがそう思った。








くそ!くそ!くそ!

表向きは動揺してない風を装っていたが、ジャルバーンは焦っていた。

ジャルバーン家という筆頭貴族の家を乗っ取り、子爵や男爵などの下級貴族のほとんどを金で囲って利益を上げてきた。

いずれは伯爵、侯爵家を操り、国をまるごと乗っ取る算段であった。

策とも呼べぬ力任せで強引な手法だが、この国の王は日和見主義で実力行使ができない事を見越した考えでもあった。

そして、予想道理、横領が発覚しても国王はジャルバーンを断罪しなかった。――否、できなかった。

それほどにジャルバーンが取り込んだ貴族は多かったのである。

すべてを罪に問えば国として破綻してしまう程に…。

シリベスタ王国は極めて危うい均衡のうえにある。

だというのにこの問答無用の招集。

これまでの王の正確からは考えられない行動だった。


「…一体誰が…」


しかし、その答えはすぐに知れることになる。


ガチャという音と共にドアの向こう側から現れたのは、エルフィーナ王女。

しかし、いつものようなおどおどとした様子ではなく、どこか毅然とした雰囲気を纏っている。

貴族達もエルフィーナ王女の変わりように驚いている。

そして、その後に続いて現れた人物に会議室が一層ざわめいた。


「あれは…」

「勇者様?」

「確か…棗様と申されましたか」


彼から勇者様と呼ぶ棗だった。


「チッ」


ジャルバーンは舌うち一つ。


「あいつか…」


と、忌々しげに棗を睨みつけるのであった。








今日の俺はご機嫌である。

最近は俺の趣味を思う存分に満喫できたからだ。

しかし、その最後の仕上げが残っている。

これこそがメインイベントだ。

さてさて、では派手にやるかね…。



俺は不安げな顔で俺とエルフィーナの方を見ている貴族達に向かって不敵な笑みを浮かべてみせる。

お前達のことならなんでも知っているぞ、と言わんばかりに。

その顔を貴族達は直視できずに、誰もが視線を俺から逃がす。


「さてエルフィーナ、打ち合わせ道理にな」

「お任せを、棗様」


エルフィーナは俺の言葉に優雅に頷いてみせる。

その表情には今までになかった自信がありありと浮かんでいた。

これも俺と行動を共にしていた影響だろうか?

まぁいい。

俺は強い女は大好きだからな。


「では貴族の皆さま。これより王族会議を始めます。ご着席ください」


エルフィーナはそう促すと、自身も棗の隣に腰掛ける。

棗とエルフィーナを上座に、ジャルバーン、続いて伯爵、侯爵、男爵、子爵という並びだ。

ちなみに、王族会議とは王族が主として話を進める会議のことで、貴族の場合は貴族会議となる。

そして、この会議で決定したものはたとえどんな事であろうとも覆らないと決められているのだ。


「では、ジャルバーン卿にお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」

「…何なりと」


ジャルバーンはエルフィーナの迫力におされながら頷く。


「横領事件はありましたか?」


ざわざわと会議室がざわめく。


「黙れ」


しかし、棗が低い声で言うと、途端に静まり返る。


「どうなんですか?ありましたか?」

「い、いえ…ありません」


ジャルバーンとしては頷く訳にもいかない。

ここでの発言は覆らないのだから。

頷いてしまえば最後、処断されることになる。

しかし、彼には勝算があった。

ここにいる貴族達の影響力は小さくはないし、様々な弱みをジャルバーンは握っている。

ここでシャルバーンが処断されて困るのはむしろ皇族の方だ。

何故なら、シャルバーンが死、あるいは囚われるようなことがあれば、貴族達は自分たちにとってなにがなんでも隠しておきたいことを暴露してしまうという呪いがかけられているのだ。

人間には他人を操るだけの魔術はそうそう扱えないが、魔族であるジャルバーンにとっては至極簡単なことだった。


「ふぅー」


しかし、ここには通常の人間の測りでは扱えぬ存在がいた。


「これじゃあいつまでたっても平行線だな。俺はこんな茶番は早く終わらせたいんだ」


笑みを浮かべながら俺は――――


「なっ!?」


突然の事態に驚愕するジャルバーン。


「き、貴様!」

「棗様と呼べ」


ジャルバーンの首筋に剣を突き付けた。


「もう一度聞かせてもらえるか?お前は横領したか、してないのか。よく考えてから返答した方がいいぞ。俺はあまり剣の扱いには慣れてないからな」


――――美しい顔を悪魔のように歪めながら問うた。

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