契約には対価を
「ふむ」
おおまかな話を聞きながら、俺はアルガッドに入れさせた紅茶を飲みながらため息を吐く。
フローラは唇を強く噛み締めながら瞳を潤ませていた。
だんだんと面倒になってきていた俺だが、とりあえず気になっていたことを尋ねることにした。
「今生きているジャルバーンは誰なんだ?」
そう。
これだ。
汚職で話題になっているジャルバーンとは一体誰なのか?
それを聞くと、フローラとアルガッドの表情が苦虫を噛み潰したように歪む。
「二年前…私とアルガッドが一旦屋敷に戻った時のことです。お父様…いえ、お父様の姿を騙る魔族が私達を当たり前のように出迎えたのです」
「しかし、我々には対抗する術がなく、何も気づかないふりをして今日に至るというわけでございます」
「へぇ」
それは純粋にすごいと思う。
なにせ、相手は父親を殺した憎き魔族だ。
そんな相手と二年もの間共に過ごしてきたなど正気の沙汰とは思えなかった。
――それほどまでに憎かったのか、もしくは…父親と同じ姿に幻影を見ていたか…。
「勇者様」
「ん?」
「先ほどのお願い…聞いて頂けないでしょうか?」
フローラがすがるような目で俺を見る。
「それはお前の父親を騙っている魔族を殺してほしい…ということか?」
「はい」
強い決意。
もうここで終わらせようとする目だ。
「ふむ」
俺はこの女が気に入っていた。
何事にも屈しない強い女というのは非常に珍しいのだ。
だから、条件次第では手を貸してやるのもやぶさかではない。
「条件覚えてるか?」
「…は…い」
消え入るような声で頷くフローラ。
やはり、力いっぱい頷けるようなことではないのだろう。
なにより、ここで嬉しそうに頷かれると俺が萎えてしまうに違いない。
俺は嫌がる相手を無理矢理に押さえつけてヤるというのも好きなのだ!
「じゃあとりあえず服を脱げ」
「え!?」
弾かれたように俺を見るフローラ。
目は信じられない、とでもいいたげに見開かれている。
「こ、ここで…ですか?」
「何か問題でも?」
「………ぃぇ」
「だったら早くしろ」
「………はぃ」
震える手で服に手をかけるフローラ。
そこで俺は振り返り、部屋かで出ようとするアルガッドを呼びとめた。
手を爪が食い込む程強く握り、顔には一つの感情が浮かび上がっている。
嫉妬である。
ああ、なるほど…と俺はあることに気づく。
俺は好奇心に身を任せて声をかける。
「どこへ行く?」
「私は…お邪魔のようですので?」
「何を言っている?お前はここにいろ」
「は?」
「聞こえなかったか?お前はお嬢様の護衛なんだろ?だったら俺がフローラに危害を加えないように見張ってないとな?」
「貴様っ!?」
「棗様と呼べ。塵が」
俺に殺気を向けるアルガッドを無視して俺はフローラに再び振り返る。
フローラは青い顔で震える手を身に纏うドレスにかけている。
俺の笑顔があまりに美しすぎたのか、目が合うとビクンと身体が硬直する。
どうやら俺に対して怯えているようだった。何故かは分からないが。
だって考えてもみてくれ?
こいつと俺は初対面だ。
その相手に殺しを依頼したのである。それなりの報酬を頂くのは至極当然のことだろう?
で、あるならばだ。
今から起こることは当然で仕方のないことなのだ。
うん。そうに決まってる。
「どうした?早くしろ」
「あ…ああ…」
フローラは絶望に染め上げた顔を隠すように項垂れ、服を脱ぎ始めたのだった。
――一週間後。
「~~~♪」
俺は機嫌がいいのを隠しもせずに、鼻歌交じりに町を歩く。
一週間だ。それだけの時間をかけて、ようやく最後の仕上げが終わった。
仕事をいうのは、もちろんフローラに依頼された件である。
しかし、いくらなんでも表向きは筆頭貴族であるジャルバーンを真正面からぶち殺すのはさすがにまずい。
そう思い、今日までエルフィーナにも手伝わせて準備をしてきたのだ。
それがようやく終わった。
しかし、ちょっと名残惜しかったがね…。ククク。
そんな俺が向かっているのは、王宮の大会議室である。
どうしてそんな所に向かっているかというと、これからそこで会合を行うことになっている。
そこには、王女と勇者権限でジャルバーンを始め、癒着に携わっている人間を集めた。
――さて、これから大がかりな塵掃除といきますか。
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