現状把握…そして破壊に向けて…
「ふぅ…」
俺が召喚されてから一夜が明けた。昨日の件で民衆は俺の事をいろいろと噂しているようだが、そんなことは正直どうでもよかった。
朝日が部屋を照らすなか、俺はエルフィーナに入れさせた紅茶を傾ける。甘すぎず、苦すぎず、あいつは紅茶を入れるのがなかなかに上手いようだ。ここは、シックな色合いの調度品や沈み込むようなソファーのある豪華な部屋。エルフィーナの部屋である。
「さて…」
とりあえずは状況を整理してみよう。
俺は昨日、この世界『ヴェゼーラ』に召喚された。この世界は科学技術の代わりに魔術が発展しており、俺が召喚された王国『シリベスタ王国』は王と貴族からなる王権政治の元なりたっている。主要な国家は他に二国。軍事・帝国主義の『アレビアナ帝国』と様々な種族が暮らす『ワキナ共和国』。三国はほぼ同じくらいの国力を誇り、アレビアナ帝国とは対立、ワキナ共和国とは中立の立場にある。国力が同じくらいのため、ここ数年は表立っての衝突はおきていないがいつ戦争に発展してもおかしくないそうだ。
次に魔王について。
半年ほど前から魔物の群れは頻繁に町を襲いだすようになり、その動きには軍隊のような統率された様子が見受けられるようだ。歴史書を紐解いていくと過去にも何度か同じようなことが起き、魔王と呼ばれる存在に辿り着いた。
魔王は強大な魔力を誇り、冷徹で傲慢と言われている。
やがて、不安にかられた民衆が騒ぎだし、シリベスタ王国は民の鎮静化を狙い勇者を召喚した。つまり、本当に魔王がいるかどうかの確認はとれていない訳である。
「まったく忌々しい」
今すぐにでも国王の首を獲りに行きたいくらいだ。
「…棗さまぁ…棗さまぁ…」
俺はそんなうわ言を耳にとらえ、その声の主に視線を向ける。
「なんだ、そんなに嬉しいのか?」
「はい…棗さまに…ご奉仕できて…嬉しいですぅ…」
その視線の先には、俺は足に跪きながら恍惚とした表情で足に舌を這わせているエルフィーナの姿があった。
なんとまぁ、たった一夜でここまでとはな…才能があったのかもしれない。
それにしても、エルフィーナがこの国の姫だと知った時は驚いた。
さっき頭で整理していた情報も、ベッドの中でエルフィーナに聞いたものだ。
涙と処女の証である血を流しながら俺の下で悶えるエルフィーナの姿を思い出し、俺の口元に笑顔が浮かぶ。
「お前、仮にも一国の姫だろ?そんなんでいいのか?」
「いいんですぅ…私をただの女として扱ってくれたのはぁ…棗様だけですからぁ…」
ただの女って言うよりも玩具として…なんだな…まぁ、本人が喜んでるんだからいいだろう。
「じゃあ俺は出かけてくるぞ」
「え?」
なおも舌を這わせてくるエルフィーナを払いのけ、俺は立ち上がる。
「ど、どこに行かれるのですか!?」
「うるさい、そんなの俺の勝手だろうが」
「帰って…きてくださいますよね?」
涙目で俺を見つめるエルフィーナに俺は優しく微笑みかけた。
「当たり前だ。お前は俺のものなんだからな。分かったらちゃんと身体を綺麗にしておけよ」
「は、はい!」
嬉しそうに微笑むエルフィーナを後に俺は部屋を出た。
ところ変わって場所は街中。
人々の好奇と畏怖の視線の只中を俺は堂々と歩く。
エルフィーナの話によると、国内では国王派と貴族派の二つに分かれており、国王もこの状況には手を焼いているようだ。
なんでも、貴族派は反乱を企てているという噂がささやかれているらしいが、俺が思うにその反乱は近いうちに現実となるだろう。
貴族派のトップというのが、長年、国の財産を管理する立場におり、最近になって汚職が発覚したことにより没落寸前だそうだ。普通ならば、他の貴族派の連中もそんな奴には早々に見切りをつけるべきだろうが、彼らにしても長年賄賂を受け取っており、断るに断れない状況になっている。
まぁ、早い話が---
「この国…腐ってんなぁ…」
それにつきる。
そして俺はというと、この国の膿を全部、国王に代わって一掃してやろうと直々に動いている訳である。なんとも優しい俺。
そんな事を考えているうちに目的の場所に辿り着いたようだ。
眼前に聳えるのは広大な土地と屋敷。小さな城くらいはありそうである。
俺はそのまま入ろうとすると---
「待て、貴様」
無礼にも俺にため口を聞いてきた奴がいた。
全身に纏っている鎧から察するに、警備兵か私兵といったところだろう。
「このお屋敷は筆頭貴族であらせるジャルバーン様のお屋敷だ。それ以上近づくのなら敵とみなし拘束する」
男は一八〇はありそうな身体で俺を威圧するように見下ろす。後ろにはあと二人ほどが控えていた。
「---ろすな」
「何?」
「俺を見下ろすんじゃねぇ!!」
俺は無意識で魔力を込めた拳で男の腹を殴り飛ばす。すると、屈強そうな男は一瞬で白目を剥き気絶した。どうやらこの男が責任者だったのだろう。控えていた二人はありえない事態に棒立ちになっている。それもそうだろう。身長一六〇あるかないかくらいの愛らしい少年の一撃で大の大人が容易くノックアウトされたのだから。
俺は素早く動くと茫然としている男二人も思いっきり殴り飛ばして意識を刈り取った。
「まったく、どいつもこいつも俺を苛々させやがる」
俺はこの苛々はこの屋敷のある人物にさせることを誓って屋敷に向かい歩きだした。
「さて、待ってろよ、俺の玩具♪」
そう呟いた表情は何かを待ち焦がれた乙女にように美しかった……。
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