ギルド依頼
エリスキーとの顔合わせを終えた俺達は、身体を休めるために自室に戻った。
身分を隠しているため、それほど豪華な部屋ではなく、エリスキーとほぼ同じ部屋だ。
聞けば、大きなギルドともなると、王族や貴族などが寝泊まりするためのVIPルームすらあるという。
それだけで、この世界でのギルドという組織の巨大さと民にとっても必要とされていることが分かる。
「棗…様ぁ…」
俺がベッドに寝込がりながらそんな事を考えていると、耳元でそんな猫なで声が聞こえてくる。
考えるまでもない。
この部屋には俺の他にはもう一人しかいない。
「…何だ?俺はもう眠い」
欠伸をしながら答え、エルフィーナに向けてしっしと手を振る。
「そんなぁ…。棗様、私もう我慢できないです…!」
エルフィーナはすっかり淫乱になってしまっていた。
人前では別人のように毅然としているが、俺と二人きりの時、特に夜は毎日のように俺を求めてくる。
俺としても嫌な訳ではないがこう毎日では身が持たない。
何より――――
まぁ、それはいい。
「そんなに我慢できないなら服を脱いで外にいけ。お前ならいくらでも買い手がいるだろ」
「そ、そんなの嫌です!」
「だったら我慢しな」
出来の悪いペットには躾が必要だ。
ペットはペットらしく主人が餌を与えるまで従順にしっぽを振って待っていればいいのだ。
「俺は寝るぞ」
もう眠いのだ。
元々運動は嫌いなのに――――できない訳ではない――――今日は何十キロも歩いた。
肉体的には平気でも、精神的な疲労は溜まっている。
「ああん!棗様っ!?」
そんなエルフィーナの悲痛な声をBGMに俺は眠りについた。
翌日。
昨日は寝る時間が早かったためか、日の出とともに俺は目を覚ました。
久しぶりに深い眠りにつけたのか、俺にしては寝起きスッキリで気分がいい。
「すぅ…すぅ…」
隣には安心しきった顔で眠るエルフィーナ。
俺はエルフィーナの指通りのいい髪をしばらく撫でた後、起き上がりシャワーを浴びる。
風呂好きの俺としては、風呂やシャワーがあるのは大変喜ばしいことだ。
この世界の風呂は水系統魔術と錬金術の組み合わせらしいのだが、それについてはここでは伏せておく。
また、その他にも、この世界と俺の世界には様々な共通点がある。
たとえば、食べ物がその代表格だ。
名前こそ違うが、俺の世界にあった食べ物、調味料、調理法は俺にとってよく見知り、食べなれたものばかりである。
そのおかげで俺もこの世界に早くなれることができたと言っても過言ではない。
そうこうしている内にシャワーを終え、着替え終わると、エルフィーナを叩き起こす。
「おい!起きろ!」
そう言いながらシーツを引っ張ると「きゃあ」と悲鳴を上げながらエルフィーナはベッドの上がら転がり落ちる。
「おら!とっとと着換えろ!おいてくぞ」
「…ふぇ――――は、はい!」
眠気でポニャンとした顔に理性が宿り、慌ててエルフィーナは着替えを始める。
――――俺の目の前で…。
その些かの躊躇もなく服を脱ぎ捨てる様子に俺は教育を間違えたか?と自問している内にエルフィーナは着替え終わったようだ。
今は櫛で急いで長い髪を梳いている。
たいくつ凌ぎに俺はふと思いついた疑問を投げかける。
「お前は化粧とかはしないのか?」
「はい。私にはまだ必要ないので!」
笑顔でそんな答えが返ってきた。
世の淑女が聞いたら激怒しそうだ。
結局、エルフィーナの準備が終わる頃には、それからさらに二十分の時間を要した。
ギルドは朝早くから活気がある。
その大半は朝食をとるために集まっているのだが、例外もあった。
「これなんかどうだ?」
「え~でも、なんか大変そうじゃない~?」
「…大変じゃない仕事…ない…」
一枚の紙きれを眺めながら、あーでもないこーでもないと議論している三人の男女。
二十歳過ぎくらいだろうか?
そんな三人が眺めている紙切れ…。
その前には巨大な掲示板がある、そこには同じ紙が何枚も貼りだされている。
「おい、あれは?」
俺はエルフィーナに問いかける。
「はい。あれはですね。ギルドの依頼書ですね」
「なるほど…。あの中から仕事を選ぶわけだな…」
あの紙には仕事の内容が書いてあるのだろう。
興味を引かれた俺は早速その内容を確かめてみることにした。
「ふむふむ…」
紙の一番上にはS~Gまでの難易度が書かれており、Sが一番難しく、Gに近くなるほど簡単な仕事内容らしい。
この掲示板にもSランクの依頼が一つある。
『龍種の討伐以来』
この依頼はどうやら国から発行されているらしく、依頼主の欄には、ワキナ共和国とあった。
「龍って強いのか?」
「強いなんてもんじゃありません。龍種は一体で国を滅ぼせる力を持っています。しかし、知性が高いため無闇に人間を襲うなんてことはそうそうありません」
「でも討伐依頼ってことは…」
「ええ…絶対襲わないわけではないですからね…。事実、数十年に一度の頻度で龍種の被害は出ています」
エルフィーナも、龍が恐ろしいのか、微かに肩を震わせている。
龍…か。
見てみたいな。
それに…龍がいれば移動が楽になるんじゃないか?
馬車のかわりになりそうだ。
そんな罰あたりかつ、こちらの世界の人間からすれば自殺行為に等しいことを考え、俺はそのSランクの依頼書を手に取った。
その瞬間――――ギルド内が凍りついたように静まり返る。
理由は察することができた俺だが、そんなことはいにかえさず、依頼書を受付に渡した。
「ギ、ギルドカードはお持ちですか?」
どこか焦ったように言う受付の女。
「ギルドカード?」
そう俺が疑問を呈すると受付もあれ?というような微妙な表情を浮かべる。
沈黙する俺にエルフィーナが小声で告げる。
「ギルドカードというのはギルドが発行する身分証明書のようなものです。また、依頼は最低でも一つ上のランク――――つまり、SランクならAランクのギルドカードを持っていないと受けることはできません」
「…ふむ」
ちなみに、ギルドカードは誰であろうとも例外はなく、最初はGランクから。
エルフィーナも持ってはいるがFランクという話だ。
困った。
実に困った。
だが、俺は龍を是が非でも見てみたい。
そしてペットにしたい。
そんな俺に救いの声がかかるのは至極当然の事だった。
「おはようございます。棗様。エルフィーナ様。――――どうかしましたか?」
エリスキー。
騎士団長をしている俺の下僕。
「お前ギルドカードは?」
「もちろん持ってます」
「ランクは?」
「一応Aランクを…」
「よし…」
完璧だ。
その後、龍種の討伐と聞いてショックのあまり昏倒しそうになるエリスキーに無理矢理依頼を受けさせることに成功した。
さぁ、待ってろよ!龍!
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