34.デートと……?
カイルに狂気の仕事大好き人間ライアンと同じ扱いをされていてショックを受けたレオノアは、きちんと休むことにした。
同僚から聞いた可愛いカフェに、サミュエルが選んだ服を着て出かけ、おすすめだというパンケーキを注文する。正面に座るサミュエルはコーヒーを頼んでいる。
「……なに?」
「いや、本当にライアン殿と同じ扱いは嫌だったんだなと思っただけだ」
「嫌というか……休みなしで働くのが大好きなわけではないもの。お休みは欲しいし、本も読みたいし」
「でも、期限を切らずに好きな研究だけをしていいと言われれば、大喜びで研究室に籠るだろう?」
「それは!趣味だもの!!」
「ライアン殿もあれが趣味なのだろう」
「あそこまではしないわ。サミュエルまで、同類扱いするのね」
レオノアはぷくっと頬を膨らませる。それを見たサミュエルは「はは、可愛い」と、レオノアを愛おしいとでも言うような目で見ていた。
実際には、健康上の被害が出る前にサミュエルが研究から引き離すし、ライアンほど色んなことにのめり込むことはない。とはいえ、レオノアが一つのことに夢中になりやすいことに変わりはない。
(少しくらいは釘を刺しておかないとな)
少し不機嫌そうなレオノアの前に注文したパンケーキが置かれると、一気に嬉しそうな顔になった。いそいそとフォークとナイフを持って、切り分け始める。
「サミュエルも少し食べる?」
「……いや、俺はいい」
「そう?」
自分が使っていたフォークに刺したパンケーキを差し出そうとしていたレオノアを止めて、小さく溜息を吐く。
こういうとき、本当に意識されていないのだと感じてしまう。間接キス、なんて考えていないのだろうな、と思いながら彼はパンケーキと一緒に届いたコーヒーに口を付けた。
(むしろ脈なしなのは、私の方じゃないかしら)
一方で、レオノアはサミュエルが思うよりは勇気を出していた。好かれている自信があるものの、サミュエルが狙われているのも知っているのでもう少し距離を近づけたいと思っていた。
「サミュエルも、人のこと言えないわよねぇ」
「何の話だ」
「ないしょ」
小細工なしでちゃんと告白した方がいいのだろう。それにしても、与えられる愛情に素直に愛情を返しているつもりなので、少し首を傾げる。
脳内でいくつかシチュエーションを考えるが、恋愛に詳しくないのはそうなので、レオノアにはあまりいい案が思い浮かばなかった。
(カロリーナさんに相談してみるべきかしら?)
サミュエルの兄サルバトーレとの新婚生活を謳歌しているカロリーナを思い出したが、そもそも、サミュエル抜きでこっそり会って相談することの難易度が高い。
普通に告白した方が早そうだった。
「何か思いついたのか?」
「そうね」
笑顔を向けるレオノアの様子を見て、「研究が進みそうで機嫌がいいんだな」と判断したサミュエルは安心したように微笑んだ。
全く関係がない思いつきである。
「私も、あなたのことが大好きよってどう伝えようか考えていたの」
「そうか……、ゴフ、ゲホッ……」
いきなりぶっこまれた言葉に、サミュエルは思わず咽た。
「君っ、ナッ、何を……ッ」
「誰かに相談したり色々悩むより、直接伝えた方が早いし拗れないわよねって思って」
「だからって何もこんないきなり……」
「思い立ったが吉日って言うじゃない」
楽しそうなレオノアを見ながら、サミュエルは頭を抱えるしかなかった。
両思いなのは嬉しいが、あまりにもムードもなにもなかった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
サミュエルが「そういうところがだなぁ!!」って頭を抱えている前で、レオノアはニコニコしている。