33.楽しいこと
レオノアは少し考え込んだ。
聖女と呼ばれた少女が、もしそんな状況に陥っていたとすれば、赤の魔法使いの元に最期に訪れたのはなぜだろうか。それは、「彼女ならなんとかしてくれるのではないか」と考えたからではないだろうか。
(私は早々に家を追い出されたから、ご先祖様がどんな方で、何をなした方なのかを全く知らないのよねぇ……。基本的にはそれでもいいと思っているけれど)
ただ、魅了を抑え込む魔道具も、薬も広がっておらず、聖女と呼ばれた女性が本当に自死を選んだとすればどうすることもできなかったという可能性は否定できない。
「マリア・ハーバーとその母親の身体的特徴が私たちと同じように祖先から引き継がれたものであったとすれば……聖女は自死しておらず、姿を消してどこかで平穏に暮らしたという可能性もあるかしら」
桃色の髪と瞳。
レオノアの赤、サミュエルの黒と同じように子孫に継承されるものであったならば。
思わず口に出たレオノアの仮説にサミュエルも少し考え込んだ。
「生存説か……。先代からは『死んだとされる』と聞かされていたが。今のマリア・ハーバーでもあれだけの騒ぎになっているんだ。生きていたとすれば死んだ、なんて言われなかったんじゃないか?」
「でも……生きていたとすれば、それは魅了を抑える何かが見つかっていたということにはならない?」
思うように研究が進まないこともあり、適当に発した言葉だった。
しかし。
「え、その話、面白そうじゃん!ボク、ちょっと調べてみてもいい?」
後ろから降ってきた声に驚いて、見上げる。すると、柔らかな金色の髪がレオノアの頬に触れた。
そこにいたのはライアン・クローヒ。カイルの側近の一人である。クローヒ侯爵家の次男である彼は、生粋のお仕事大好き人間であり、暇があることが耐えられない。そんな人物だった。しかし、カイル自身は割と定期的に「休め!!身体に悪い。倒れるぞ」と無理やり休ませていた。学園に通っている時間が休憩時間になっているとライアンは抗議をしたものの、「そんなわけあるか」と一蹴されている。
要するに、今の彼は(他者的には十分に活動しているが)暇だった。
「趣味でちょっと遊ぶくらいなら、殿下もそんなに怒らないはずだし。ボク、仕事と勉強と鍛錬以外の趣味を作れって周囲からせっつかれてるんだよね」
「ライアン殿。それはおそらく、女性と話して結婚相手を探すための趣味では?」
「ボク、今は同性と遊んでいるのが楽しいオトシゴロなんだよねぇ」
「遊んでもいないでしょう」
サミュエルがツッコミをいれると、ライアンはにんまりと笑った。
「遊んでるよ~」
なぜだか、その笑顔が怖くなったレオノアとサミュエルは押し黙ってしまった。
仕事も、勉学も、鍛錬も。そのどれもがライアンにとっては『遊び』なのだろう。どれも、本当に楽しくて楽しくて、たまらないのだ。
(私が寝食忘れて好きな研究だけやっていたくなるのと、同じ感覚かしら?)
ウキウキしながらサミュエルに情報共有をお願いしつつ、「あ、そうだ!」と思い出したように手を叩いた。
「カイル殿下が、君たちにもいい加減に休めって言ってたよ。君たちも、ボクとお揃いだね!」
「私たち、ライアン様と同じ枠に入れられている……!?」
レオノアは結構、かなり、真剣にショックを受けた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!!
仕事して学園行って、さらに追加で毎日研究に入れ込み過ぎてるので「休め!」ってなってる。すでに前例がいるので。
ライアンはこれから楽しく『趣味』として調べものをする。
たぶん、後々バレて長期休暇とか入れられる。それがライアンにとっては一番『罰』になりうるので……。