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31.やりたいことを、やるために


 レオノアは学園にある図書館で、ニコニコしながら本を積んでいた。それ自体は資料集めのためのものだが、錬金術が好きな彼女にとっては宝の山のように見える。本物の宝石を積まれてもきっとこんなに嬉しそうな顔はしないだろう。

 そして、その後ろにレオノアを見ながら関連資料の残りを抱えているサミュエルの姿もあった。レオノアが嬉しそうにしているので研究に巻き込まれることに関しては特に異論はなく、脳内で休憩させるタイミングについて考えていた。



「サミュエルも興味のあることを調べればいいのに」

「厄介ごとの解決が最優先だ。……せっかく君が、この国で平穏に暮らすことができるかもしれないのに、考えなしのせいでめちゃくちゃにされるなんて冗談じゃない。さっさと完成させてしまえ」



 考えなし、に該当する人物を思い出してレオノアは苦笑した。確かに、そう考えるのも無理はない。

 全員が命を奪われかけたのだ。警戒はするに決まっている。



「そうね。私たちがみんな、平穏に暮らせるのが一番よね」



 命を脅かされず、家族も、友も、穏やかな暮らしを享受できる。

 そのためならば、思い入れのない人間に消えてもらうことだって考えられる。



(こういうところが『悪役令嬢』なのかしら?もう令嬢ではないけれど)



 すでに乙女ゲーム、というものの記憶なんて朧気だ。そもそも、それで得られる『何か』なんて覚えてはいないから、アドバンテージだってない。それでも、『勝ちたい』と思えば、自身や家族、友人……そういった大切な人たちを守るために倒せるものだろうか。

──『悪』は『正義(ヒロイン)』に勝てるものだろうか。

 レオノアはそう考え込んでから苦笑した。

 前世であったという物語はあくまで『物語』だ。設定された通りに動くただの遊戯(フィクション)に過ぎない。『現実』ではないのだ。生きて、意思を持った人間である以上、変えることができるものは多いはずだ。



「では、全てが片付いたら、あなたのやりたいことも教えてね」

「……そうだな」



 レオノア個人にはやりたいことが多い。

 だからこそ、そう言ってサミュエルにほほ笑みかけた。



「とりあえず魅了を封じるための魔道具を作るために、いくつか読み直しましょうね。こちらとこちらには、相性の良い素材の組み合わせが載っていたはずだから……」



 そんなレオノアの言葉を聞きながら、「君、この本を読んだのは一度って言ってなかった?」とサミュエルは引きつった顔を見せる。ページ数まで指定し始めた彼女の錬金術に関する記憶力、集中力には驚くばかりだ。



(……こういうところが、『油断ならない』んだ)



 貴族として生きられぬ、とレオノアは言う。しかし、流れる血に抗えない、本能のようなものをそういったところに感じてしまうのは仕方のないことだろう。

 レオノアが錬金術を愛している以上に、彼女は錬金術に愛されている気すらしてくる。少し目を離しただけでどこまでも羽ばたいて行ってしまいそうだった。



「サミュエル、梯子を動かすのを手伝ってくれないかしら?」

「待て、君が上るつもりじゃないだろうな!?」



 どうすれば、レオノアを腕の中に閉じ込められるだろうかと考えだす前に、彼女の声が聞こえる。長い梯子を動かそうとしている彼女が何かを思いついたようにポンと手を叩いた。



「そうね。飛べばいいの」

「飛ぶな!!君は自分の服装をちゃんと頭に入れて行動しているか!?」

「サミュエル、ここで大きな声は良くないわ」

「出させているのは誰だ……!」



 サミュエルはレオノアに「どれが必要なんだ」と聞くと、メモを出してきたのでそれをさっさと奪い取った。



「いいか。俺が集めてくるから君は梯子に上るな。そして、飛ぶな。スカートを履いていることを思い出してから行動をしてくれ」

「はぁい」

「レオノア」

「はい」



 ショボショボしながら「次からはパンツスタイルで来ましょう」と机に戻っていくレオノアを見て、サミュエルはようやく本棚に向かった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


サミュエル「このポンコツめ!」

そんなレオノアが好きなおまえも大概だよ。

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