29.入手難易度が高い素材
秋になると、学園に通い始めたレオノアとサミュエルは薬学や経済学など、興味があることや、カイルに指定された講義を取っていた。常に一緒にいるため、すっかり恋人同士に見られているが、彼らはそれを「都合がいい」として放置していた。
(まぁ、聞かれても『そうよ』って答えて置けばサミュエルにも、もう少しくらい意識してもらえるかもしれないわね。他の子に興味持たれても嫌だし)
(聞かれても『そうだ』って言っておけば、レオノアが誰かを引っかける可能性も減るしな)
そして、二人して割と同じことを考えていた。更に、実践もした。
なので、まだ二人が恋人同士でも何でもないなんて学内の人間で知っている者はほとんどいなかった。まだ在学しているカイルたちも、そんな二人を見ながら「もうどうにでもなれ」と若干思っている。若干、イラッとした顔をするのはゲイリーくらいだろう。
「それで、依頼に関して進んでいるのか?」
「あまり進んでいないわね。やはり材料を何とかしなければ」
「……難しい素材なのか?」
「妖精の鱗粉、幻蝶の翅、アルラウネの花粉、リリスの花あたりが候補ね」
「高難易度過ぎるだろう。滅多に市場に出回らないものだぞ!?しかも、相手取るには厄介なものばかりじゃないか」
レオノアはサミュエルの言葉に苦笑する。そんなことを言われても、カイルの依頼は魅了を用いて第二王子の婚約者となったマリア・ハーバーの能力に耐えうる魔道具の作製と、魅了を解く手がかりを得ることだ。今もなお強くなっていると思われる能力に対抗する手段を探しているのだ。自然と素材は手に入りにくいものになっていく。
リリスの花と呼ばれる特殊な花だけは王家の温室で管理されている。だが、希少な植物であることに違いはない。
「あの子の力が、あのままであったとしても使い方によっては脅威だったと思うわ。……だというのに、カイル殿下の話ではもっと強くなっているのでしょう?だとすれば、相対するときの彼女の力量がわからない以上、より強い効果となる調合を試すべきではあると思うの。同時に、より多くの人たちが必要な魔道具を手に入れられるように、手に入りやすい材料で最大の効果を発揮できるようにしないといけない、とも思うの」
「……それは、そうだな。兄さんにも聞いてみるか」
「最悪、自分で狩りに行くしかないわね」
「それはやめろ」
本気で嫌そうな顔をするサミュエルを見ながら、レオノアはクスクスと笑う。
レオノア自身は本気でそれを考えてはいるが、最後の手段だ。
レオノアは自分が学生としては優れた魔法使いであると考えてはいる。だが、ゲイリーのように己の腕だけで道を切り開くことができるような力があるとは思っていない。
「最悪の場合は、よ。冒険者への手配で手に入るようなら、おそらくカイル殿下が何とかしてくださるわ」
「君は研究のためならやりかねない。信用できない。出かける時は俺にきちんと全てを説明してからにしてくれ」
あまりにも本気の目だった。
ほとんど過去の英雄たちの記録を知らないレオノアと違って、サミュエルはその記録を知っている。赤の魔法使いというのは、代々そういうことを『やる』存在なのだ。錬金術のためならば、ある程度の危険は仕方がないと『やる』生き物なのだ。
「意識的に魅了を使用していても、何も考えずに使用していても、厄介なことこの上ないわ。封印する方法ってないのかしら」
自分の家族や友人等、大切な人たちが被害に遭うようなことがあるかもしれない。その可能性を考えるのも腹立たしい。
本来の『アマーリア』であれば「面白い実験動物ね?」などと言ったかもしれないが、レオノアはあいにくとそういう風には育てられていない。本当にただただ厄介で面倒だとしか思えない。
「でも、早く試したいのも確かだし……アルラウネくらいなら」
「確かにあれは女相手に効力を発揮する個体は少ないが、そんな厄介な魔物がいる場所なんて危険度が高いに決まっているだろう。やめろ」
本気で行きそうだと判断したのだろう。すぐに却下されてレオノアは頬を膨らませた。
なお、最終的に素材はレオノアに執着するオルコット辺境伯家が入手してくれた。
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