25.合格通知
二人が揃ってカイルの執務室に向かうと、彼の机の上には二通の封筒があった。
「来たか。まずはよく戻ってきた。明日からまた職務に励むことだ」
カイルの言葉に素直に返事をして頭を下げる。それから、封筒を受け取ると開けるように促される。それは休暇前に受けた学園の試験結果だった。
「合格、ですね」
「俺も合格です」
二人の報告に頷くと、「よくやった」とカイルは言う。これで、レオノアたちも国立図書館や中にある専門書籍が読めるようになる。そうすれば、レオノアに頼んだことも実現しやすくなるはずだ。
「依頼は覚えているな」
「魅了を防ぐ方法とそこから回復する方法でしたね」
「そうだ。隣国の様子がきな臭い……いつあの女を放り込まれても対処できるようにしておかなければならない」
相変わらず、マリア・ハーバーの魅了はロンゴディア王国で猛威を振るっているらしい。同性は異性よりも魅了にかかりにくいというけれど、それでも一部は取り込まれてしまっている状況のようだ。彼女の目線一つで多くの人間が虜になる。そうならない人間は国を出る前のシュバルツ商会が売り出していたレオノアの作った腕輪を持っている人間、そして耐性のある人間くらいのものであった。そのうちの一部は敵対したという。そして、罪を被せて破滅させたりした。
だから、ロンゴディア王国は今、めちゃくちゃな状態である。
「当然、お前たち以外にも研究している人間はいる。だが……隣国の英雄の子孫、その能力を継いだお前たちだからこそ、わかることもあるだろう。期待している」
その言葉に、レオノアは少しほっとした顔をした。これは一人で背負わずに済んだ、というのもあるが、「じゃあ、私が集中してやらなくてもいいかな」みたいな考えもある。馬車の改造とかにも時間が使えるだろう、なんて考えている。
サミュエルはそんな彼女を見ながら、「どうにかして先に魅了の研究をやらせないと」と考えていた。レオノアの性格を考えれば馬車の改造にのめりこむ確率が高いことを察していた。
(彼女を裏切るつもりはないけど、魅了の力がどれだけ自分や周囲に影響を及ぼすかわからない。それに、もし年を追うごとにその力が増していくとすれば、その緊急度は増す)
天才錬金術師の子孫であり、その才能を継ぐ彼女ならばあの魅了を使う女に対抗できるのではないかとそう考えてしまう。きっとレオノアの作った魔道具が帝国でも役立っているからだろう。
(俺が彼女に危害を加えないように、とりあえず魅了を防ぐための魔道具はさっさと作ってもらいたいけど……興味のあることしかやろうとしないからなぁ、レオノア!)
その心境を素直に伝えれば、レオノアは普通にサミュエルを優先するのだが、いかんせん、彼には自分がレオノアにそこまで優先される人物であるという自覚は薄かった。カイルやゲイリーが知ったらぶん殴られるレベルである。そして、レオノアに優先される人間だからこそ、彼はカイルに取り込まれようとしているのである。
「……レオノア、そうはいっても優先してこちらのいう研究はしてくれ」
「はい」
ニコニコのレオノアに何かを察したカイルが呆れたような顔でそう言うと、彼女も頷いた。サミュエルは「こいつ、わかってるのか?」とでも言うような顔をレオノアに向けている。
「サミュエル。わかっているとは思うが、おまえの役割はコイツの、舵取りだ」
「殿下、それは俺でも……」
「レオノアは……おそらくお前の言うことは聞かん」
カイルは少し迷いながらもそう言った。ゲイリーはとても落ち込んだ。
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