24.夏季休暇の終わり
久しぶりに家族と楽しいひと時を過ごしていたレオノアはご機嫌だった。サミュエルはそんな彼女を見てご機嫌だった。好きな女の子が笑顔でいることが嬉しかった。
ロンゴディア王国にいた時とは違って、帝都とこの町の距離はそう遠くないけれど、休みの日数も少ない。あまり長く共にいることができないことは残念だった。
「今度は僕が姉ちゃんたちに会いに行きたいな!」
帝都エデルザートの話を姉から聞いたエリオットがそう言っているのを聞いたレオノアは「やっぱり馬車の改造を考えてみても……」なんて呟いてサミュエルも苦笑した。レオノアは弟とたくさん会うためならきっと改造馬車を完成させるだろう。サミュエルにはそんな確信があった。
「まぁ、物流なんかにも活用できそうだし、完成したら褒められそうではあるな」
「そうね。エリオットに『さすが姉ちゃん!』ってキラキラした目で言ってもらえるわね」
「俺は国にとって有用だろうと思ったつもりだったんだが……まぁ、君の優先度はそうなるよな」
相変わらずのレオノアに生温かい視線を送る。
レオノアが家族大好きなのは初めからわかっていたことだ。
「資料探しは帰ってからだよ、レオノア」
「わかっているわ、サミュエル」
声をかけられて、今度こそ王都に戻るために荷物を馬車に詰め込んだ。馬車の中に乗り込んだレオノアは、家族の姿が見えなくなるまで手を振った。それから、ちょっぴりしょんぼりする。
「思ったより近くにはいただろ。今度は向こうから遊びに来てくれるかもしれないぞ」
「それも……そうね」
サミュエルの言葉に肯いて、レオノアは顔を上げた。それと同時に「向こうに行ったらいろいろ調べなきゃ……さすがに錬金釜にこれは入らないし……業者も訪ねてみないといけないかしら」なんて考えだした。
「……これは、本当にやるな」
サミュエルはレオノアのただならぬ様子に溜息を吐いて、戻ってから声をかけにいく業者のリストを脳内で整理する。
これだからサルバトーレに呆れられるのである。
レオノアたちは帝都に戻ってくると、カイルとゲイリーが彼女たちを出迎えた。扉が開いてもああでもない、こうでもないと設計図を描いている彼らを見て頭を抱えていた。
「お前たち、よく帰ってきた」
カイルの声に顔を上げたのはサミュエルの方だった。レオノアの肩を叩き、「出迎えだぞ」と囁きかける。「あら、本当……」とレオノアが顔を上げる。
馬車から降りて、二人は「ただいま戻りました」と揃って礼を取る。
「それで、どうして殿下自らこちらに?」
「話があるからだ。荷物を降ろしたら執務室まで来い」
カイルは頭が痛そうだった。ゲイリーも「それでは後ほど」とカイルについて去って行った。
二人は顔を見合わせて首を傾げた。
「私たちのいない間に何かあったのかしら?」
「俺はただの庭師なんだが……」
上司に呼ばれているので、とりあえず行かなければならないだろう。彼らはそう判断して、寮に荷物を降ろすと、着替えてすぐにカイルの執務室へと向かった。
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