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22.夏季休暇


「俺もレオノア嬢とご一緒します」

「お前は実家の方に呼ばれているだろうが!たわけ!!」



 ゲイリーがそんなわがままを言っている中、レオノアとサミュエルは普段着に着替えて馬車に荷物を積み込んでいた。「やっぱりサミュエルの方がズルい」と言うのにはカイルも同感である。着実に外堀を埋めてきたのだろうということがうかがえる。



(まぁ、実際レオノアもサミュエルが好きなように見えるし仕方がないと思うが)



 サミュエルが必死過ぎて気づいていないのがいっそ哀れですらある。ゲイリーには許さなかったこともサミュエルになら許す。そんな様子を見ているのでカイルは「こいつも大概だな」という目でサミュエルを見ていた。

 確かにゲイリーは高位貴族の嫡男だし、レオノアの本当の身分は侯爵令嬢だ。けれど、レオノア自身はもう平民としての生活に慣れていて、今更貴族になれはしないだろう。ゲイリーだって身分を捨ててもそれなりに暮らしてはいけるだろう。だが、おそらくレオノアとは価値観が違いすぎる。いくらゲイリーが彼女を愛していると言っても、培われた価値観の違いは不幸の種になり得る。



(それを思えば、このままが互いにとって一番いいように思うがな)



 そうは思えど、カイルには目の前にいる友人の制御を試みるくらいしかできない。恋する気持ちなど他人に動かせるものではないのだ。

 カイルは深々と溜息を吐きながら、馬車に乗り込む二人を見送った。



「……カイル殿下、良い人だな。ルーカスと違って」

「ルカも良い人だと思うけれど」



 レオノアの言葉にサミュエルは笑顔を返しながら「あいつはレオノアに付く虫だからな」なんて考えていた。もちろん、レオノアにそんなことは言わない。恋敵にレオノアが見つかったこと、元気であることを知らせてやっただけ自分は親切であると思っている。



「ルカたちにも会いたいわね」

「俺は会わなくてもいい」

「もう……」



 サミュエルはどこまでも素直だった。

 彼はあのときレオノアを追いかけるのを止められたこともだいぶ根に持っていた。



「それよりも、もっと楽しいことを考えよう。エリオットくんと何を話すかとか」

「そうね!!やっぱり背も高くなっているのでしょうね……はぁ、可愛い弟と私を引き離す何もかもが恨めしいわ……」



 サミュエルは何とも言えない表情でレオノアを見ていた。これが普段から家族と住んでいる、とかであれば彼も「弟離れしなよ」と言っただろうし、血がつながっていないことを知っているので嫉妬の一つもできたかもしれない。だが、国の政策だからと無理やり学園に通わされた挙句に邪魔になった第一王子と一緒に殺されかれた上に、助けられた先の勧めもあって現在帝都で働きながら暮らし、また学園に通わされることになったレオノアが言っていることなので何も言えない。



「うん、そうだね。全部あの厄介ピンク頭令嬢のせいだね」



 サミュエルはそんな苛立ちを全部マリア・ハーバーのせいにすることにした。半分は平民だというのに彼女は現在、王太子となった第二王子の婚約者として暮らしている。魅了を駆使してなりあがったものだ。

 というか、妙な嫉妬からレオノアに目をつけていたことは確かなのでやっぱりマリアのせいだろうとサミュエルは頭の隅で考えた。いつかぶっ殺すリストの最上位にはいる。



「そういえば、あの子、魅了っぽい能力を制御できているのかしら?」

「君の話では努力とか嫌いみたいだったし、制御できていない可能性は十分あるけど」

「精神に作用する力なのだから、ちゃんと制御できていないとなると、自分自身も恐ろしい目に遭うと思うのだけど……」

「元々、どこか精神性がおかしい人間だから、何とも言えないね」



 普通であれば、好意にしても悪意にしても行き過ぎたものは恐ろしいと考える。けれど、周囲の国の重鎮やその子息にも影響が出ていることからも、マリアは自分の能力を「恐ろしい」だなんて考えていない気がした。

 レオノアは「変な子ね」なんて呟いた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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