19.カイルの提案
「姉上のところの侍女と紅玉宮の人間が婚約等結び始めているのだが」
「はぁ……男の方を紹介してほしいと頼まれましたので……」
カイルの問にそう返すと「お前だったかぁ……」と少し遠くを見ていた。問題はないが、まさかの人物から結びついている。
婚約者に浮気されて誠実な人間を求める人間同士を紹介したり、家が貧乏な人間に融資と人材の派遣ができそうな家柄の人間を紹介したり、意外と上手くいっているからどう言っていいのかわからない。
「問題にでもなっていますか?シャウタ男爵令嬢には幸運のキューピッドなどと呼ばれましたが」
「いや、奇跡的に家同士の関係も悪くないし今のところ何も起こっていない」
「派閥は踏まえて紹介いたしましたので」
抜け目ないのは良いことか。実際、男の方はそろそろ相手をと家からも散々言われて重い腰を上げようとしていた。ちょうどいい機会ではあったかもしれない。
「……最近では男性の方からも、蒼玉宮の女性を紹介できないかと聞かれていて、大変困っております」
「紹介してやればいいだろう」
「いえ、男性と話すと面倒な者がおりまして」
「すまない……」
すぐに二名ほど心当たりがあったカイルは素直に謝った。執着心が激重な男たちに求婚されているのを忘れていた。とはいっても、サミュエルがぶっちぎりで優勢なのでゲイリーにはいい加減に諦めてほしかったりするが。
「それで、御用はこれだけでしょうか?」
「……いや、違うよ。これを読んでほしい」
カイルから渡された紙を預かり、軽く目を通す。
「これは……魅了ですか?」
「そうだ。お前とシュバルツ商会のおかげでわが国でも精神魔法に対抗する魔道具が広がっているが……国外に出ている者が一部妙な動きをしている。それも、王族の婚約者と出会った直後にな」
レオノアはその話を聞いて、「他国の人間にそんな馬鹿な事をする人、あの子以外にいるのね」なんて考えながら資料に目を通していたが、終わり近くになって、思い浮かんだ人物がそのまま犯人であろうという記述を見つけてドン引きしていた。
普通、国際問題になりかねないことはしないだろう。一応は高位貴族である。そう考えていたのに、コントロールできているのか、いないのか、周囲を自分の思い通りに動かそうとバンバン使っているような書き方だ。
(こんなのを王子妃にするつもりだなんて……ルカの弟って趣味が悪いのね。それとも操られているだけかしら?)
レオノア自身は好きになった相手に魅了をかけるなんて理解できないが。
そんなことをしても、生涯これは魔法で生まれた感情なのか、本当に思われているのかわからないだろう。初めはよくても、ドンドン相手を信じられなくなり、魔法が解けてしまうことを恐れながら生きていくことになる。そんな関係性に価値はあるのか。あるいは、相手を『物』とみなすならそうすることもあるのかもしれない。
「魔道具の作製依頼ですか?」
「それもあるが、魅了を解く方法も探したいと思っている。それで、だ」
カイルはそれが本題だというように手を組んで前に乗り出した。
「我が国の学園に通うつもりはないか」
カイルの申し出にレオノアは瞳を瞬かせた。
付け足すように「レオノアがいないとうるさそうなのも行かせるか。協調性を学んだ方がいいしな」なんて言い出す。
カイルの申し出の意味があまりわからないまま、詳細を聞くためにレオノアは口を開いた。
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