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16.久しぶりに二人


 レオノアがちょくちょく会いに来るので、サミュエルは「ここに働きにきて正解だったか」なんて思っていた。ゲイリーがついて来るのは邪魔でしかないが、今まで居場所すらわからなかったレオノアと会えるだけで良しとしている。

 ゲイリーは本気で邪魔だが。



(庭師やってると、レオノアが時々薬草採りにくるからやっぱり異動はなしだな)



 サミュエルは上司(カイル)から「魔馬の世話係とかやるか?」と聞かれたけれど、レオノアに会える頻度だけで残留を決めていた。ゲイリーの方が長時間一緒にいることができる今の状況だって気に食わないのに、今以上に会える時間が減るなんて絶対に嫌だった。それだったら、レオノアに薬草を手渡しして「ありがとう」と可愛らしい笑顔を向けてもらえる今の仕事の方がマシというものである。

 それに、実家に戻れば飼っている魔物たちにも会えるので特に困ってはいない。このエデルヴァード帝国で飼われている魔馬が気にならないと言えば嘘になるが。



「サミュエル」

「終わったのか?」



 庭木の剪定をしながらレオノアを待っていたサミュエルは、鋏を降ろして問いかけた。頷くレオノアに「じゃあ、今から自由時間だな」と微笑みかけて、台の上から降りる。



「兄さんたちにでも会いに行くか?義姉さん……カロリーナ嬢とはこちらで結婚したから、あの人もいるぞ」

「まぁ……お元気?会えるなら嬉しいけれど、カロリーナさんまで国を出てきてしまったのね」

「家を勘当されてもいい、と兄さんについてきたらしい。表向きはそういうことになっているが、元々シュバルツ商会(うち)から援助を受けていたこともあって、テイル男爵家ごと少しずつ国を脱出しているようだ。おそらくそう経たないうちに移住してくるんじゃないか?」

「家族との縁が切れるなんて悲しいことだもの。よかったわ」



 レオノアはまだ再会できていない家族を思い出しながら微笑んだ。彼女が家族と再会できていないのは、単に皇都から少し離れたところに居を構えているためである。シュバルツ商会はその近くに店舗を構えていることもあって、手紙のやり取りだけはできるようになった。

 レオノアの両親は彼女が無事であることに安心し、喜んだ。一方で、サミュエルにいろいろと聞いているようでお説教の分厚い手紙が届いた。書いているのは主にレオノアから文字を教わっていた弟のエリオットだ。両親だけでなく愛しの弟からもガチ説教の手紙を受け取ることになったレオノアはちょっと泣いた。



「じゃあ、お邪魔してもいい?お土産は何がいいかしら」



 楽しそうに近くにある店の名前を呟くレオノアに「日持ちのする焼き菓子とかでいいんじゃないか?」と伝えながら、台と鋏を抱える。それを倉庫にしまうと彼らは着替えて宮殿を出た。

 久しぶりにゲイリーの襲撃を受けていないため、サミュエルは少し機嫌がいい。人ごみの中、「はぐれないように」とレオノアと手を繋いで街を歩く。



「楽しそうだな」

「楽しいわ、あなたと一緒だもの」



 振り返ったレオノアを愛しげに見つめる。

 ふんふんと鼻歌を歌いながら、キョロキョロと店を探すレオノアに「君のお気に入りの店でいいんじゃないか?」と言うと、少し難しい顔をした。



「でも、あまり高級なお店じゃないのだけど」

「そのあたり、あまり気にしなくても大丈夫だよ。というか、前に義姉さんたちにおすすめされた店も庶民的だっただろ?」



 レオノアは思い出しながら「そういえば!?」という顔をする。

 確かにシュバルツ商会には金があるし、カロリーナは男爵家とはいえ貴族出身だ。けれど、別に高級志向というわけではない。



(あとは、普通に意外と食通なレオノアの好物であれば、商売に直結する可能性もあるしな)



 中身に日本人が混ざっているせいか、レオノアは既存の料理を魔改造してでも美味しいものにしようとするところがあった。既製品で気に入るものがなかったり、値段が高くて手に入れられなかったりすると、自分で探求を始める。実際、カロリーナはレオノアが休みの日に作っていた紅茶のクッキーが好物だった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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