8.スキル鑑定
レオノアは翌日、予約していた冒険者協会の研修に来ていた。
薬草の見分け方、王都周辺の魔物の生態、戦い方に関する講座の紹介。
その他諸々の説明を聞いたあと、最後にレオノアはスキルの鑑定を受けることになった。これは、レオノアが冒険者になろうとした理由の一つだ。
(貴族は七歳で鑑定を受けて、自分が持つスキルを把握するけれど……平民は冒険者になるしか知るすべがないのよね)
とはいえ、平民として平穏に生きるのであれば必要ないと考える人間も多い。有用なスキルを持っていて、貴族に目をつけられれば連れ去られて、劣悪な環境で働かされるというケースも過去にあった。こういった出来事は意外と風化せず、口伝で伝わっていくものらしい。
「スキル鑑定は今から?」
その声に振り向くと、サミュエルが壁に背を預けてひらひらと手を振っていた。
溜息を吐いて、「あなたは何の用?」と腰に手を当ててサミュエルの方を向く。
「別に。自分のスキルを知って、君がどんな顔をするか見に来ただけだよ」
「あなたには関係ないでしょうに……」
呆れたようなレオノアの声に、サミュエルは「そうでもないさ」と肩をすくめた。
「スキルが生産よりなら、ウチが力になれるだろう?俺の家族は結構顔が広いんだぜ」
「……確かにそうかもね。あなた、意外に親切なのね?」
レオノアは「ふふ」、と笑い声を零した。サミュエルはそれを見て、一瞬瞳を大きく見開いた後、「俺は初めから親切だろ」と口角を上げた。
(まぁ、君のスキルなんて決まっているも同然だけど)
サミュエルは知っている。彼女の才能を。
けれど、口を噤んだのはそのスキルを国に隠していた方が面倒になりそうだったからだ。
彼女に現れているだろうスキルは決して特殊と呼ばれるものではない。けれど、彼女は平凡な者たちと違って、すべての技術をみるみる吸い取ってすぐに高みへと昇っていくだろう。そういう『存在』であるとサミュエルは知っている。
(だから隠すべきはそのスキルじゃない。その才覚と……覚醒させるべき『魔眼』の方だ)
そのあたりの説明は、この後の方がいいだろう。
そう判断して、「スキル鑑定が終わるのを待っているよ」とほほ笑んだ。
サミュエルと別れたレオノアは、名前を呼ばれたあと、職員に案内されるまま個室へ入った。すると、魔力の測定があった時と同じ神官がそこに座っていた。
「あら、レオノアちゃん。冒険者登録をしたのね」
「ええ、神官様。だって、そうでないと、入学前時のスキル申告ができないでしょう?」
「そうねぇ」
神官はそう言って苦笑する。
スキルを知って一攫千金を夢見て冒険者になろうと思う者もいる。学園に入るほど魔力が強くなくても、魔法が使える程度の魔力がある平民もいるものだ。彼らはそのために冒険者になる。
最初はいい。あまりランクの高い任務を受けることはできないから。
けれど、依頼をこなしていくと、そのうちに危険な任務にあたることもある。
そうした状況でケガをした場合、一気に何もかもを失う人間もいた。
「今回も多くの方が冒険者を志望しているけれど……安全第一で頑張ってほしいわ」
溜息をついたあと、「あなたもよ」と釘をさすのも忘れない。そんな彼女のことを「いい人だなぁ」と思いながらレオノアは笑顔を浮かべた。神官の多くは魔道具を扱うということもあって貴族、もしくは貴族の血を継ぐ人間が多い。
この国は、貴族が回している。
レオノアがそう察するのも早かった。
「では、スキルの鑑定を始めます」
神官の前にある銀の器が、彼女の魔力を受け取って淡い水色の光を纏う。その光が収まると器は水で満たされていた。
その器に手を浸す。水がレオノアの魔力を感知して色を変えた。
魔力の塊である水が器から落ちて、下にある紙に広がる。それを神官が風の魔法で乾かすと、紙に文字が浮かんでいた。
「あなたのスキルは……錬金術」
その言葉を聞いて、レオノアはサミュエルの言葉を思い出して「本当に生産よりだった」と目をぱちくりさせた。
(そんなこともあるのね)
紙をもらって、「あの人、勘が良いのね」と首を傾げた。
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