14.理屈の通じない感情
何とかサミュエルを説得して紅玉宮に帰ってきたレオノアとゲイリーはちょっと疲れていた。
「ぜっっったいに、そっちで働けるように手を回すからな!!」と別れるギリギリまで粘るサミュエルを引きはがすのに大変苦労した。あの様子なら、文字通りどんな手を使ってもやってきそうである。
「まさか、あそこまで言われるなんて」
(俺が同じ立場でも『再会したら監禁しておこう』と思いますが……言わない方がいいでしょうね)
自由にさせて『あなたのためだと思って』とどこかに行かれてしまっては困る。彼女には一緒にいてくれるだけでいいのに。
渋々だろうが諦めて送り出したサミュエルは、むしろ人ができていると言ってもいいくらいだ。
「よかったですね。再会できて」
「ええ!!」
当然のように膝の上で抱きしめられている様子は不快であったが、この笑顔を見ると心の底からそう思う。
(いや、やはりあのサミュエルとかいう男は不快ですが)
好きな異性に近づく男なんて、いないに越したことはない。だが、レオノアの笑顔を曇らせたいわけではない。
少なくとも、現状のレオノアに恋心などという繊細な感情が発達しているとは思えなかった。つけ入る隙があるとすればそこだろうか。
「レオノア嬢」
「どうかしましたか、オルコット様」
「ゲイリーでよいのですが……」
「さすがにそれはどうかと」
身分の差を気にするレオノアだが、彼だって初めから伝えている。
「身分がなくなれば、名を呼んでくださるのですか?」
「え……?」
レオノアを命が危険になる状況に追い込むつもりはない。ゲイリーは実力主義を謳うこの国で天才だと言われる武の才を持っている。それでも、愛しい人が望むのなら、その覚悟はできている。
「俺だって、あなたのためであればこの命を賭すことも辞さない覚悟はあります。一生あなただけを思い続けるでしょう。身分など、あなたが共に生きてくれるというのであれば惜しくはありません」
たった一目で運命を確信した。
この少女が、己が生涯愛する人なのだと。
レオノアはそれが本気であると感じて「どうして……」と困惑する。自分がどんな態度を取ってきたか彼女にはわかっていたし、そう長い時間を共に過ごしてきたわけではない。なぜそう言ってくれるのか、レオノアには全く理解ができなかった。
「恋というのは、理屈が通じるような感情ではないでしょう?」
そう言って微笑みかけるゲイリー。
誰かにこんなにも強い感情を抱いたことはなかった。執着することもなかった。
レオノアだけだ。
「ただ、あなたが好きなのです。レオノア」
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