12.再会
レオノアは休日になると、許可証を発行してもらって宮殿から出た。
シュバルツ商会が王都にあるということは侍女研修をしていた先の先輩たちから確認が取れた。そして、街に出ようとしていた時、後ろから彼女を追いかけてくる人間がいた。
「レオノア嬢」
「オルコット様」
「俺のことはゲイリーとお呼びください、愛しい人」
相変わらず何とも無邪気な笑顔で口説いて来るゲイリーに苦笑する。
追いかけてきたということは何か用があるのだろうか。そう思ってレオノアはゲイリーに尋ねたが、休暇が重なってレオノアを誘うつもりが外出したと聞いて急いで追いかけてきたようだった。
「わざわざ追いかけて来ずとも……」
「いえ、あなたに目をつける不埒者が現れないとも限りませんので」
(自己紹介かしら)
レオノアは思わず目を逸らしてしまった。
とはいえ、特に追い返す理由もない。仕方がないので、レオノアは一緒に街に出ることにした。
エデルザートの街並みは美しい。治安も祖国と比べるとだいぶ良い。皇族も貴族も、この国をよく治めているということだろう。
「あまり徒歩で散策する機会はありませんが、たまにはいいものですね」
道行く人々の笑顔を見ながら、ゲイリーがそう呟いた。そんな彼に「そうですね」と笑みを返す。
「そういえば、レオノア嬢は本日どこに行きたいのでしょうか」
「シュバルツ商会へ行こうと思っています」
「なるほど、買い物ですか。荷物持ちは俺にお任せを」
トンと胸を叩くゲイリー。さすがにレオノアが貢がれるのを嫌がっていることは理解したらしい。
ちゃんとお断りした甲斐があった、とレオノアがホッと息を吐く。
そうやってレオノアたちはシュバルツ商会に訪れた。ロンゴディアの店舗とはまた違った雰囲気だ、とレオノアが周囲を見回す。
その途端、腕が引っ張られた。懐かしい香りと、その安心感に名前を呼ぼうとしたが、殺気に目を大きく見開いた。
「彼女を放せ」
「嫌だね。レオノア、何コイツ」
「……同僚?」
剣がサミュエルの喉元に突きつけられているのを見ながら、レオノアはそう言って首を傾げた。ゲイリーが「厳密に言えば彼女への求婚者です」なんて告げると、サミュエルはレオノアの頬をつまんで伸ばした。
「君、また誑かしたのか!?」
サミュエルの脳内にはルーカスの顔が浮かんでいた。レオノアは顔が一級品のせいかポンコツなのにやたらモテる。まともに話せないので「離して~」と言い始めてようやく手を放す。
「なんか、助けてもらってお礼を言ったら『結婚してください』って言われた」
「断ったんだろうね」
「断った」
満足そうに頷くサミュエルにイラっとしたのか、ゲイリーは「あなたこそ彼女とどんな関係なのです」と低い声で問いただした。
「俺は君が好きだけど」
「もっといい雰囲気で告白してほしい」
「一緒に死んでやるって言ってやっただろ。実質求婚だ」
「た、確かに……!?」
「絶対違いますよ、レオノア嬢」
ゲイリーはジト目でレオノアを見ると、「違うの!?」とでも言いたげな瞳で見つめられた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
こればかりはゲイリーが正しいよ。