11.仲間の行方
紅玉宮に正式雇用されたレオノアは、侍女として働きながら、ゲイリーが席を離れる瞬間を待っていた。幸いと言っていいのか、ゲイリーはカイルの仕事がらみで他の部署に行くこともある。その時間を狙って、カイルと接触したレオノアは調査結果を受け取った。すぐに空間魔法内にしまいこんで、丁寧に頭を下げる。
「お前……本当に何でもできるな」
「何でもはできませんわ。だから私は負けたのです」
そう返すレオノアにカイルは複雑そうな顔をした。一国家の陰謀に『負けた』と彼女は認識しているのだ。何の感情も乗せていない無の瞳だがその口元には笑みを浮かべている。なぜか、そんな彼女がいつか何か仕返しでもするのではないかと感じた。だが、カイルはすぐに考え直す。いくら恨みがあっても、国に対して個人でできることなんて限られている。さすがにそんなに大それたことは考えていないだろう、と。
「それは寮にでも戻ってから確認するといい」
「かしこまりました。殿下の善意に心より感謝いたします」
レオノアはその結果に期待した。
冒険者ギルドの対応は少しおかしいように感じていたのだ。
「どうせ見つからない」
そんな雰囲気を察した。
(オルコット辺境伯、手を回していたのかもしれないわね)
彼は妙にレオノアとゲイリーを手元に置いておこうとしていた。カイルがあの時、辺境伯家を訪ねていたのは運がよかった。
産みの母と似ているだけで仲間探しを邪魔されてはかなわない。叶わなかった恋のことなんて忘れておけばいいものを。
それでも、ゲイリー自身は仲間探しを手伝おうと思っていた様子が見られた。軍部の方で聞いて回ったり、冒険者ギルドで情報を集めたりしてくれていた。なので、レオノアもゲイリー自身は嫌いになれずにいる。まだ好いているとはいえないが、複雑な心境である。
レオノアは業務を全て終えると、寮に帰って結界を張った。
カイルからもらった調査結果を広げると注意深く確認していく。
一緒に逃げていた仲間たちは、無事にサルバトーレと合流できたらしい。そのまま、エデルヴァード帝国に移ってきた彼らはシュバルツ商会と共に動いていたようだ。ルーカスとウィリアムはまた変装をして冒険者として活動をしながらレオノアを探しているようだった。
「……?なぜサミュエルに要注意人物だなんて書いてあるのかしら」
商人の伝手を使って血眼でレオノアを探しているサミュエルは影の人間から見ても異様だった。「ゲイリー様にしときなよ、やっべーよ」とちょっと思う程度には必死だった。
けれど、レオノアは「そんなに必死に探してくれているのね」とすごく嬉しくなった。
「でも、どうやって連絡を取ろうかしら」
あの犬笛は逃げている途中で壊れてしまった。個人で連絡を取る手段があまりにも少ない。
レオノアは少し悩んでから、「王都にシュバルツ商会の支店や新店舗がないか調べてみましょう」と考えて頷いた。この調査結果時点では王都から離れていたようだが、商会の職員に手紙を渡せば、サミュエルまで届くかもしれない。サミュエルに特殊な封蝋をもらっているので、それがあれば本物のレオノアだと気づいてもらえるはずだ。
調査結果を片付けて、窓の外を見上げる。
「やっと、会えるかもしれない」
レオノアは空に浮かぶ月を見上げてようやく安心したような顔で微笑んだ。
その近くを、一羽の小鳥が飛んでいた。美しい夜空色の鳥はこの空の下ではあまり目立たない。
レオノアを見つけた瞬間、小鳥は近くの木にとまって「きゅるる」と鳴いた。
「……見つけた」
その視線を通じて、ようやく求める者が見つかった。少年は窓の外の月を見上げる。
――今度はその手を、離しはしない。
そう思いながら、空に向かって手を伸ばした。
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みーつっけた