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8.ケイトリン・エデルヴァード


 カイルから連絡が回っていたのだろう。レオノアが蒼玉宮(そうぎょくきゅう)に行くとすぐにその宮の侍女頭に引き合わされた。

 レオノアを上から下まで見て、「そうね……サイズはこれかしら」なんて言ってメイド服を渡された。着替えるように指示されて、案内された部屋でメイド服に袖を通す。鏡を見ながら「意外と似合うのでは?」なんて思いながら長いスカートをつまんだ。

 部屋から出ると、再び侍女頭の前に連れていかれる。そして、研修雇用にあたっての注意事項を聞かされた。

 まず、侍女になる前に基本的な業務を叩きこむためにメイドからスタート。各責任者に合格点がもらえれば、次の部署に。もらえなければずっとそのまま。ある程度業務が身に付いたら次は教養を学ぶ。そして、『これならば紅玉宮(こうぎょくきゅう)(カイルの宮)に送っていい』と侍女頭が判断すれば正式雇用という形を取る。



「こちらは契約書です。給金、待遇など目を通して問題がなければサインなさい」



 レオノアは丁寧に読み込んで、いくつか質問を挟みながら読み終えると丁寧に名前を書く。書き終わると、書類は回収されて「ついてきなさい」と言われる。

 言われたとおりについていくと、大きな扉の前に立つ。



「連れてまいりました」



 侍女頭の言葉で、その扉は開かれる。

 中にいたのは、カイルと同じ金髪に翡翠の瞳持つ美しい少女だった。猫のようなまあるい瞳は興味深そうにレオノアへ向いている。



「よく来たわね、あの氷のゲイリーを落とした子」



 その言葉でレオノアはゲイリーを思い出して「氷?」と首を傾げた。出会って目が合った瞬間跪いて求婚してきたので落としたという認識もない。『勝手に落ちた』が正しいだろう。なんと答えるべきかわからず、曖昧な笑みを浮かべる。



(顔がいいもの。モテるわよね……)



 レオノアは「またいじめられかねない場所か……」と少し憂鬱な気分になった。慣れているとはいえ、常に対処を求められるのは非常に面倒だ。



「反論はないの?」

「そうですね……あるとすれば、落としたではなく勝手に落ちた、ですね」

「あら、カイルからかなり面白いことになっていると聞いているけれどどんな状況で出会ったのかしら」

「魔物に襲われているところを助けていただいて、お礼を言おうとしたら求婚されました」

「きゅうこん」

「求婚ですね」



 表情も変えずに言ったレオノアの言葉に彼女は大笑いした。面白そうで何より、とレオノアは窓の外に視線を移した。良い天気である。



「それで、受け入れたの?」

「いえ、逃げようとしたのですがどうにも逃げられず……」

「そうね、ここにいるものね。大体、あの男が本気だとすればあの身体能力から逃げ切ることは困難ですものね」



 一気に可哀相なものを見る目になった少女が「ああ、自己紹介を忘れていたわね」なんて言って持っていた扇を広げた。



「わたくしはケイトリン。この帝国の第一皇女……カイルの姉よ。あの子を狙ってやってきたお馬鹿さんの可能性も考えていたけれど、手紙通りただの保護のようね。よろしくてよ。いつ誰に嫁いでもいいようにこの蒼玉宮で鍛えてあげる」



 皇女ケイトリンは面白そうにそう告げるが、その後ろにいる侍女たちは不満そうだ。侍女頭はそんな彼女たちをじっと見つめている。



(私を試金石にでもするつもりかしら)



 こんなに表情を崩す少女たちだ。ケイトリンの側近であるとは考えにくい。わかりやすすぎる。

 少しだけ、カイルを恨む気持ちが出てきたレオノアだった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

旧作キャロル→ケイトリンに名前変えてます。

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