7.皇都エデルザート
皇都エデルザートに到着したレオノアたちは、とりあえずカイルの勧めに従って冒険者ギルドに立ち寄った。現状、レオノアという名の捜索願いが出ていないことを確かめた彼女は、少ししょんぼりする。その後、友人たちが探していれば連絡を取れるように決めておいた暗号を使った張り紙をしてもらった。
「レオノア、しばらく侍女として働かないか?」
宮殿まで連れて来られたかと思えば、カイルにそう打診される。そっとゲイリーに目をやっている彼を見てレオノアは察してしまった。
――断ったら、ストーカーされるやつだわ……。
ゲイリーはあくまでもレオノアと一緒に居たいだけだ。おそらく、レオノアが嫌がるようなことはしないだろう。追いかけては来る以外は。
(悪い方ではなさそうなのだけど)
皇都に来るまで夜這いもなければ、無理強いだってない。服飾品を押し付けるのをやめてほしいと言えば、すぐに頷いてもくれた。そう、言えば大体のことはやめてくれる。付きまとい以外は。
おそらく、ここで冒険者などやってもゲイリーがたびたびやってきて騒ぎになるだけだろう。レオノアはそう判断してカイルの打診に頷いた。
「それでは、これからもあなたと過ごせるのですね」
ニコニコと『嬉しい!』というオーラを隠さないゲイリーに周囲は困惑するような目を向けている。そのことにレオノアは首を傾げた。
不思議そうなレオノアに気が付いたカイルは苦笑する。
「ああ、コイツ。今まで人前ではニコリともしなかったからな」
「今だってレオノア嬢以外に向ける笑顔はありませんが」
爽やかな笑顔であるが、言っていることはどうかと思うレオノアだった。
(……高位貴族の跡取りらしいのに大丈夫なのかしら)
レオノアの考えがわかるのだろう。カイルはジト目でゲイリーを見ていた。それでも許されているのは、あの驚異的なまでの戦闘力のためであろうか。少なくとも、レオノアはあんなに腕の立つ人間を見たことがない。ロンゴディアで強いと言われていた高ランク冒険者よりも、おそらくは強い。
(敵にしたくはないわね)
道中でも、魔物や襲撃者をほとんど一人で倒していた。カイルは別に彼一人に任せたいわけではないのだが、他に誰かいた方が邪魔になってしまう。そんな圧倒的な才能の持ち主だった。だが、皇太子が重用するにはいささか、内面に問題がありすぎる。しかし、ゲイリーを近くに置いておきたい。そんな思惑から、ゲイリーはカイルの側近になっている。
「しばらくは研修として姉上……第一皇女ケイトリンのところに行ってもらう」
ケイトリン皇女のところである程度の教育を受けて合格点が取れれば、カイルの宮に正式雇用という形になる。
「どうして研修がここではないのですか?」
「人手不足のためです」
ゲイリーがにこやかにそう返す。
「カイル皇子はまだ婚約者がいないためか、行儀見習いとしてやってきた者たちがいろいろとやらかしまして……一斉解雇をしたばかりなので、圧倒的人手不足です」
「それ……私がここに配属されても大丈夫なのですか?」
「ゲイリーが全力で口説いている女だからな、私狙いだとは思われまい」
ゲイリーが少し離れた隙にカイルはこっそりと「こちらでもお前の友人は捜索しておく……このことはゲイリーには言うなよ」とレオノアに告げた。
レオノアは素直に頷いた。
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