6.一休み
レオノアは用意された部屋に荷物を置いてから、付属の浴室で汗を流していた。
(さすが皇族が泊る宿ね……)
部屋に浴室が付いている宿はそう多くない。カイルが泊るとなれば安全のために多少高い宿になるだろうと思ってはいたが、部屋自体もふかふかのベッドに充実したアメニティグッズ、部屋を明るく保つ魔道具だけでなく部屋の温度調整ができる魔道具などが揃っている。
「私にまでこんなにいい部屋を取ってもらってよかったのかしら」
そう呟くけれど、連れ出したのはカイルの方なのだから、と無理やり自分を納得させた。
最後の方、レオノアを連れ出そうとしたカイルはただ「オルコット領から出すために」命令を出したようにも見えた。実際に、彼の提案を振り切って逃走していればどうなっただろう、と少し考える。
おそらくは、捕まるし、何かしら理由をつけて仲間探しを妨害されるだろう。
ジェイコブはどう見ても、かつての初恋の君の娘であるレオノアを手元に置きたがっていた。レオノアが若き日の母フィリアとよく似ていたというのも理由だろう。さすがに手を付けようといった様子は見られなかったけれど、己の息子がレオノアに惚れているという状況も合わせると、気が付けば彼の妻になっていた……なんてことも十分あり得る。そこまで考えて、少しぞっとする。
(ことあるごとに気遣う言葉はかけてくださるけれど……)
それが下心ありきであることを考えると寄りかかってはいけないと思ってしまう。
肩まで湯につかると、思わず息が漏れた。
「さみしい」
生きて再会しよう、と覚悟して手を離した。けれど、ロンゴディア王国の王都に出てから、ずっと一緒だった仲間たちと離れたことは寂しい。家族とも夏以来会えていない。
早く会いたい、という思いが強い。
(でも、まだ一緒に死ぬ時じゃないと思ってしまったのだもの)
唇を尖らせて、指で水鉄砲のように水を飛ばす。
小窓から空を見上げる。夜空を見上げてサミュエルを思い出して、目を閉じた。一度、溜息を吐く。そして、ゆっくりと瞳を開けて立ち上がった。
身体を拭いて、着替えようとすると、用意してあったものではない、知らない服が置いてあった。
「何これ」
下着に手を付けられていないだけマシだろうか。いや、勝手に服を取り換えるのは親しい間柄でない限りはかなり気持ちが悪い。空間魔法を使えば取り出せはするが、まだそれが使えることを知られたくなかった。
仕方なく、その服に袖を通す。
そのまま浴室を出ると、カイルのつけてくれた護衛騎士がいた。少し夢見がちな女性で、レオノアの姿を見た彼女はとても楽しそうに「やっぱりゲイリー様の見立てた服がよくお似合いで……!」なんて言う。
レオノアは少し引きつったような顔になってしまった。
確かにセンスは悪くない。白いワンピースドレスは清楚な雰囲気が引き立ち、可愛らしい。背中が少し開いているのは気になるが。ただ、レオノアの好みではなかった。
(白は汚れが目立つのよね)
もうこれは、自分で洗濯するからこそであるのかもしれない。レオノアは普段、制服以外で白い服を着なかった。汚した場合の染み抜きなんかが億劫だからである。なんて女子力の低い理由なのだろうか。だが、レオノアはそれなりにタイトなスケジュールで学園に通っていた。そんなもの、気にかけたくなかったのである。
そもそも、こんなやり方で着せられてもちっともワクワクしない。というか、ちょっと気持ち悪い。
レオノアの好感度はまた下がった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ゲイリー……君はやり方がな、ちょっとまずいんよ