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7.サミュエル


 その少年は黒い髪に黒い瞳だった。

 前世の女が暮らしていた世界では見慣れた色だ。

 けれど、今世、この国では非常に珍しい。



「嘘。もしかして『俺』のことがわからない?後継者のくせに?」



 言葉の意味がわからず、「初対面かと思いますが」と返した。ムッとした表情をした少年はレオノアと距離を詰める。そして、まっすぐにレオノアの瞳を見つめて、「は?」という腹立たし気な声を発する。



「し、信じられない……。君が何もわからないはずだ。何も受け継げていない。瞳も、魔法も……なぜ、先代はそんな馬鹿なことを」

「サミュエル」



 青年が窘めるように名前を呼んだ。



「君が近くに寄ってきたから人払いはさせたけれどね。あまりここでその話をするのは良くないよ。これ以上、話をするなら奥の部屋を用意するからそちらにしなさい。それと、新人さん」

「は、はい」

「弟がすまないね。この魔道具を渡しておくよ。弟が何かするようならば躊躇わずに使いなさい」

「え、兄さん。俺の心配は……?」



 青年はにっこりと笑みを作って「必要かい?」と問いかけた。笑顔なのに、なぜか青年が怒っているように感じて、レオノアは腕を摩った。ちょっと怖い雰囲気だった。

 青年が渡してきた魔道具は魔力を通すことで刻まれた魔法が発動し、相手を拘束するといったものだ。弟に対して、とはいえ容赦がない。



「じゃあ、行くよ」

「ちょっと……!?」



 腕を引かれて、部屋に連れ込まれる。

 椅子を勧められると、溜息を吐いてからそこに座った。すでに貸してもらった魔道具を発動させようかという考えが頭を過る。



「それで、あなたは何者?」

「俺は黒。黒の魔法使い。赤の魔法使いといえば貴族の出だ。名前くらい、聞き覚えがあるだろう?」

「ない」

「……は?」

「ない」



 レオノアはムッとして腕を組みながらそう答える。

 貴族ならば聞き覚えがあると言われても困る。すでに「アマーリア」としての存在は消されてしまった。五歳の時に。

 まだ幼かった彼女にはそう多くのことを教えられてはいなかった。



「私は小さいときに生家に捨てられているの。貴族だから知っている、なんて期待をしないでちょうだい」

「捨てた……赤を擁立しているからこその侯爵家であったのに?」

「そのあたりの事情も知るわけがないでしょう」



 やはり生家のことを知っているようだ。忌々しく思う。

 すべて、すべて。もう彼女からは縁遠いものだ。



「けれど、ようやく納得はしたよ。それならば、何も受け継いでいなくても仕方がない」



 呆れたような声音でそう言った彼は「改めて」と仕切りなおすように、レオノアをまっすぐ見据えて不敵に笑った。



「俺はサミュエル。このシュバルツ商会の次男だ。六色の魔法使いの件についてはとりあえず今度でいいだろう」



 説明する気はあるようだ。けれど、それは今ではないらしい。レオノアを見て促すように「君は?」と告げる。



「私はレオノア。あなたが知る貴族の少女は死んで、その名は知る必要がないと思う」

「死んだ。そう……それだけの、愚かな真似を……。まぁ、生きているならそれでいい」



 そう言って、彼はレオノアがこの商会に来た目的である武器選びを手伝う。

 レオノアはまだ、彼と長い付き合いになることを知らない。


読んでいただき、ありがとうございます。

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