1.助けた少年
第二部スタート
落ちながら、レオノアは風の魔法で身体を包み込み、衝撃に備える。
同時に雪崩れてくる土砂を見ながら、軽く舌打ちをする。それでも、自分のために死んでやるとまで言ってくれたサミュエルを巻き込むよりマシだった。生きてさえいれば、再び出会える。レオノアはそう信じている。
そのまま地面に落ちて、土砂が彼女を飲み込んだ。風を纏っていた部分を土魔法で整える。一息吐いてから、慎重に掘り進めていく。
(よほど、嵐と縁があるのかしら)
思えば、ガルシア家で追い返された日も嵐だった。そう思い返した彼女は自虐的な笑みを作る。そのあとすぐに、息ができなくなる前に土の中からでなければならないと作業を再開した。
学園で魔法を学んだ甲斐もあって、魔法全体はそれなりに得意だ。特に火の魔法が得意だというだけで、他の魔法も苦手ではない。以前はコントロールに若干の不安があったが、錬金術で特殊な指輪を作成したことをきっかけにそれも克服している。錬金術には細かな魔力操作が必須である。
ようやく外に出られた頃、空には美しい夜空が広がっていた。
「ふふ、やっぱり私ってば運がいいわ」
――だって、あの状況で生き延びたのだもの。
レオノアはゆっくりと立ち上がって、星を眺める。方角を示す星座を見つけて、「ということは、帝国はあちらの方向で……」と判断して歩き出した。ケガも擦り傷くらいしか負っていないあたり、本当に運がいい。
そうやって歩いていると、洞穴を見つけて中に入った。少し悩んでから「追われているのだし」と入り口を魔法で軽く塞ぐ。空間魔法内から野営用の寝具を取り出して、結界を張る。そして、レオノアは眠りについた。
翌朝、ゆっくりと壁を崩して再び歩き出す。
寂しいけれど、辛いけれど、でも自分が生きているならば友人たちは必ず逃げ切っているだろう。そんな妙な確信もあった。
だから、動ける。足を動かせる。
そんなレオノアは新しいトラブルに遭遇していた。
ダッシュで逃げていた。
「さすがにアッシュウルフは想定していないのよ!」
木の上に駆け上がると、数匹で囲まれる。そして、別の木へと飛び移るとそちらの木に体当たりをして揺らしてくる。ジッとしていたら燃やされる可能性もあった。
(火の属性魔法を使ってくるって、相性が良くないのよね)
火の魔法への耐性が高い。それならば、他の属性魔法を使えばいいだけなのだが、数が多すぎる。たまに氷柱を落として何体か削ってはいるものの、数が多すぎて得意魔法を封じられた状態であるのがキツイ。
どうしようか、と少し焦りながら考えていると、登っている木の右側に強風が吹いた。それに少し驚いていると、次は左側。それでようやく、赤い血が舞うのを見た彼女は「風ではない」と気づいた。下を見下ろすと、銀色の髪が目に入った。黒い執事服のようなもの着用しており、剣を握っている。
アッシュウルフは彼を見て後退りをしていた。
「さて、最近この辺りで暴れているようですし……全滅、していただきましょう」
何の感情も乗っていない声と共に、彼は剣を薙ぐ。
レオノアには脅威であった魔物たちがあっという間に肉片になってしまった。そのことに驚いて木の上から思わず軽く拍手をしてしまった。そのことで彼の視線が上に向く。
「それで……、あなたは何者ですか?」
そう問われたレオノアは「助けていただいたのに、木の上からお礼をいうのはダメね」と頷いて、飛び降りた。魔法で補助をして降りると、銀髪の少年が驚いたように目を見開いた。
「助けていただいてありがとうございます。私はレオノアです」
そう言って微笑むと、少年は彼女の前に膝をついた。レオノアを見上げる赤い瞳にはなぜだか熱が感じられる。
「あの……?」
「俺と結婚してください」
少年の言葉に、レオノアは「は?」と呆然としたような声を発した。
初手プロポーズはさすがにレオノアも困惑せざるを得なかった。
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