61.望まれた死
ようやく魔物だらけの山を下りた彼らだったが、その後もあまり運がいいとは言えなかった。
一度、ウィリアムが衛兵を見つけて声をかけた。そうしたら、ルーカスの姿を見た瞬間、彼らは切りかかってきた。そこで、三人は追われる身となった。今回こそは必ず始末をする。そういった意思を感じる。
「本当にすまない」
逃走しながら、ルーカスは二人に向かって頭を下げた。「私さえ捕まれば、君たちは逃げられるはずだ」とどこか緊張した声で告げる。
「俺はあなたを売ってまで生き延びたいとは思いませんよ」
少年たちの美しい友情を見ながら、レオノアはやはり彼らに見覚えがある気がしていた。ものすごく今更ではある。
彼らの髪の色が変わったら、と思いながら眺めるとやはり友人に似ている。能力だってそうだ。光属性魔法が得意なルーカスと身体強化魔法以外は得意でないウィリアム。戦うときの癖、掛け合い。
「となると、見捨てるのは気分が悪いわねぇ」
さすがに仲間を捨てていこうと思えるほど、彼女は冷酷ではなかった。そうなると逃げるしかないわけだが。
「それで、どこまで行きます?」
「……君も、いいのか?」
「友人を見捨てるほど、冷たい人間のつもりはないのだけれど」
その言葉に、彼らは息を呑んだ。「いつから」とウィリアムが呟いた声に「さっきよ」と苦笑した。
今まで気づかなかった方がおかしかった。だからサミュエルに心配されるのだろうと思って溜息を吐く。貴族だろうとは思っていた。だが、友人が王子様だなんて誰が思うだろうか。似ていても「気のせいだろう」と思うに決まっている。
「国ごと捨てるか、どこかに潜伏するか。私は国を出ていく気なのだけれど」
さらりとそう告げたレオノアに「……ガルシアか」とルーカスが呟いた。それに、「ハーバーも、ね」と返す。
ルーカスはその言葉に死を望まれているのが自分だけではないと悟る。
「……とりあえずは変装して準備をしないと」
「そう。食料は少し多めに確保してあるけれど、四人分と考えると心もとないし」
四人分、と言ったレオノアに二人は首を傾げた。
レオノアは知らない間に犬笛のようなものを持っていた。
「今からサミュエルを呼ぶわ。何かあったらこれを吹いておとなしくしているようにと言われているの」
自分の友人は頼りになる、と自慢げな顔のレオノアを止める前に彼女は笛を吹いていた。
「レナ、君、人を巻き込むのに躊躇がなさすぎるよ!?」
「だって、このままだと手詰まりだもの」
レオノアは世間知らず三人で旅ができるなんて思っていない。潜伏だって正直難しいだろう。だから、手助けはどちらにしたって必要だ。
愛してくれる家族のためにも、彼女は死ぬわけにはいかないと考えていた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
レオノア、やっと気づく。