60.死の山
山を下りていると、時折冒険者の遺品らしきものが落ちていた。服や荷物はそのままに骨すらその場には残っていないのが不気味である。
「食料はなし……貴重品は盗まれていない。魔物か動物の類による被害か?」
「魔石とかもばっちり残ってますね」
レオノアはそれらの状況から『喰われた』ことを察する。骨まで喰らうとなるとどんなものに襲われたのだろうか、と少し不安になる。
それに、鳥の声一つ聞こえない。そのことが異常さを嫌でも感じさせる。
(なんだか、イヤな感じがする)
常に食料として見られている感覚。それが一番近いかもしれない。レオノアだけでなく、ルーカスたちも異常さには気づいているのだろう。どこか緊張した面持ちだ。
こんな場所は早く離れるべきだ。それが三人の総意だった。だから、みんな黙って、足早に歩く。ちょっとした下り坂ならばいいが、きつい場所になると足元が不安だ。それでも、この場所にとどまるわけにはいかない。ふと上を見れば飛ぶ鳥を見つけた。ようやく自分たち以外の生き物を見つけてレオノアはホッとした。それも束の間のこと。
木が蔓のようなものを伸ばし、鳥を捕まえた。それは瞬時に鳥を飲み込んだ。
それを見たレオノアは察した。生き物がいない、その理由を。
「トレント」
震える声で導かれた答えに、周囲の木々が蠢きだす。まるで正解だ、と彼らを嘲笑うかのようだった。
レオノアの言葉に、二人は周囲を見回した。
「なるほど、通りで生きている物を見ないわけだ」
「疲れている姿を見て狩り時だと判断したのか。……慣れてやがる」
疲れて座り込んだが最後、絡めとられて喰われるのだろう。先ほどの鳥のように。
気づいたからだろう。周囲から触手のように蔓が伸ばされる。ウィリアムがそれを剣で切ろうとするが、しなやかで弾力性のある蔓は逆にそれを絡めとって取り上げようとした。レオノアが風の魔法で切ると怒ったように複数の蔓が伸ばされる。
(3、2、1……ここ!)
タイミングを計ってレオノアは火の魔法でほとんどの蔓を焼いてしまう。木であるためか火が嫌なのだろう。いくつかのトレントが距離を取った。
それを見たルーカスが「レオノア、もう一回できるか!?」と叫ぶ。レオノアは頷くとルーカスの手から金色の光が現れた。誘蛾灯に誘われた虫のようにトレントたちはルーカスへと向かっていく。
「捕らえた」
ルーカスの姿が揺らいで、次の瞬間そこにあったのは先ほど拾った死んだであろう冒険者の服。
そして、金色の光が向かってきたトレントを閉じ込める檻になっていた。その一部が一瞬開くと、レオノアは思いきり火の魔法をぶち込んだ。
それはトレントを焼き尽くしていく。レオノアとルーカスの後ろに捕らえ逃したトレントが残っていた。それと二人の間にウィリアムが立ち、魔力を剣に流す。それは青い光となって可視化されている。ウィリアムがトレントに向かって剣を振り下ろす。先ほど、剣を絡めとられたのを見ていたのだろう。触手が伸ばされた。
「何度も同じ手をくらうと思うな」
ウィリアムはトレントをきつく睨むと触手を断ち、本体に迫る。その刃は、トレントに届いた。
そして、トレントを真っ二つに切り裂くと、周囲から木々が消えていた。
「ここにあった木のほとんどがトレントだったのか」
「確かにあの環境で普通の木が育つのは難しいかもしれませんね」
動物も植物も、トレントによって生息できなくなっていたのだろう。
焼け跡に散らばった魔石を軽く回収しながら、レオノアたちはようやく山を下りることができた。
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