54.休暇は終わり
年が明け、少しすると休暇が終わった。まだ雪に覆われている地面を見ると、「まだお休みしていたいかも」と思ってしまうレオノアだったが、そんなことを言っても仕方がない。
制服に着替えて、髪をまとめる。最後に眼鏡をかけて鏡を見れば、地味な少女が立っていた。これ以上になると前髪を伸ばすことも検討すべきだろうか。
すっかりくたびれた鞄を持って登校すると、掲示板のあたりが騒がしい。
(……そういえば、休暇明けに魔法実技実習の班分けが発表される、と言っていたかしら)
基本ボッチなので、誰と組んでも一緒だろうとあまり気にしていなかった。これまでの成績と魔力量も考慮されるため、マリアと一緒になることがないだろうという判断も興味が薄かった理由の一つだ。
掲示板の前で喜んでいる人もいれば、不機嫌そうな人もいた。三人組が作られるはずだ、なんて考えながらレオノアも掲示板の方へ向かう。すると、複数人に睨まれてぎょっとする。理由もわからないまま実習を一緒に行うことになるメンバーを確認して納得した。
(ルーカス殿下とアスール伯爵令息様……それは睨まれもするわね)
せっかく目立たないようになってきたというのになんて面倒な。そう考えてしまうレオノアは悪くないだろう。
とはいえ、レオノアが決められることではないのでどうしようもない。このメンバーであれば成績が悪くなることはないだろう。
そんなことを考えながら教室に入った瞬間、「ねぇ、あなた」とマリアに声をかけられた。こんなに堂々と話しかけられたことがなかったので驚く。レオノアの様子なんてまるで気にせず、彼女は話を続けた。
「わたくしと実習班を交換してくださらない?」
そう言われたレオノアは「何言ってるんだろう、この子」ときょとんとした。それが気に食わなかったのか、彼女の後ろにいた男子生徒がマリアの方がルーカスにふさわしいだとか、平民ごときが王族と並んで許されると思っているのかと騒ぎ出した。彼らを見てマリアは困ったような顔をしているが、止めるつもりはなさそうだ。
「いえ、私も実習班自体はどなたとでも構わないのですが、これを決めているのは担当教諭ですのでよろしければそちらに抗議をしていただけると……」
レオノアに決定権なんてないのだ。言われたってなにもできない。
しかし、そんな返答が気に食わなかったのか、「そんなことを言って、王族に媚びをうりたいだけだろう!」「そうだ、この売女め!!」などと罵り始めた。
(品がない方々……本当に良い教育を受けているのかしら?それとも、この子の影響かしら)
メガネの奥の瞳は冷え切っている。
そもそも売女と呼ばれるべきは男たちを侍らせているマリアや、アマーリアの生まれる前にはもう彼女の父親と通じていたマリアの母親だろう。一人ぼっちで学園に通うレオノアのどこを見たらそうなるのか。
(……いや、もしかしてサミュエルやルカと一緒に活動していることだけ見ればそう見えるのかしら?)
目の前にいる彼らが心底どうでもいいので少し思考が逸れた。
その時だった。
「何の騒ぎだ」
不機嫌そうな声が教室に響く。そこには第一王子ルーカスが立っていた。いつものようにその後ろにはウィリアム・アスールが控えている。
「殿下、あなただってハーバー侯爵令嬢以外の人と実習は……」
「優秀であるならば誰でも構わない。……だから、萎縮しなくてもいいよ。頑張ろうね、君」
ルーカスにそう言われてレオノアは素直に「はい」と頷いたけれど、心の中では頭を抱えていた。
(火に油を注がないでくださる……?)
とはいえ、ルーカスたちが来たおかげで彼らは引いた。恨みを買っているのは確かだが、侯爵令嬢を引かせるとなると、公爵以上の家格が要求される。
どちらにせよ仕方がなかったのだ。そうは思ったが、最後に睨まれたように見えたのが気にかかる。
(何もないといいけれど)
ざわざわとした気持ちを落ち着かせるように、胸元をきゅっと握った。
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