53.聖夜
サルバトーレやカロリーナにもプレゼントを購入し、帰宅する。お互いの贈り物を買ったものよりも良い店を選んだのは、二人して年上のお兄さんとお姉さんに少し背伸びをしたかったためである。
比較的手に入りやすい部類ではあるが、ブランドのロゴが入った袋を見た二人は苦笑した。とはいえ、別に無理をして購入したわけではない。ありがたく受け取って、彼らもまた用意していた贈り物を渡した。
「可愛いマフラーでしょう?似合うと思ったの」
レオノアの首にマフラーを巻き付けるカロリーナはご満悦だ。彼女はレオノアを着飾るのが楽しくて仕方がない様子である。
すっかりレオノアを取られたサミュエルは兄と並んで二人を見ていた。
「キャロは本当にあの子がお気に入りだね」
「兄さんはそれでいいのか?」
「僕はおまえほど、嫉妬深くないからねぇ」
さらりと返された言葉にウッと詰まった。
「サミュエルは結構、わかりやすいと思うのにまさかレオノアさんがここまで鈍いとは……」
「本当にな!?」
兄の言葉に、サミュエルは思わず同意してしまった。どう考えても自分のアプローチはあからさまだと思う。段階なんて考えずに一度はっきりと告白した方が意識してもらえるのではないかと思い始めた。距離を置かれるのが怖いなんて言っていたらおそらく一生気づかれない。サミュエルはそんな気がした。
「……となると、デートスポットの選定と言うタイミングを」
ブツブツと呟き始めた弟に少し呆れたような目を向ける。カロリーナが「ディナーまでに着飾ってくるから待っていてね!」と楽しそうに離れていったことにもまだ気が付いていないだろう。
かつての英雄の才能を継ぐとはいえ、こういうところはただの子どもなのだなと少し安心する。
幼い頃から、妙に魔物や動物に好かれる子どもだった。サルバトーレは今でも、彼の友人である一番大きな魔物が近づくことすら恐ろしい。
(得体の知れないところはあるが、こういうところは可愛いといえるか)
やっと女性二人がいないことに気が付いたサミュエルが周囲を見回している。「着替えに行ったよ」と伝えれば、少し不服そうな顔をしていた。
「なんだ。彼女の私服に口を出すだけでは足りないのか?」
「彼女に選ばせたら、機能性と地味さでしか選ばない。……可愛い恰好がみたいだろう?好きな女なんだから」
そっぽを向く弟の頭を撫でれば「ガキ扱いするな」と払われた。その反応がガキだよ、と伝えなかっただけサルバトーレは優しいだろう。
「さ、僕たちも着替えに行くよ。せっかくの聖夜だ」
「そういえば、兄さんはでかけなくてよかったのか?」
「夜景は食事を終わらせてからでも十分に間に合うようにしてあるよ。それに、結婚すれば毎年ちがう聖夜を過ごせるんだ。こんな年があってもいいよ」
弟は二人きりにしてほしかったかもしれないが、サルバトーレはカロリーナに対しての方が甘かった。笑顔の兄に、両手を上げて降参の意思を伝える。
「兄さんたち、意外と仲が良いよな」
「婚約者なんだ。関係は良好な方がいいだろう?互いに好意を持っているにこしたことはない。まぁ、それが難しい人たちもいるみたいだけどね」
事業や家同士のパワーバランスで決まった政略結婚の相手と仲良くできない、なんてそれなりにある話だ。恋愛感情を抱けなくとも、尊重し合えるならばまだマシだろう。
肩を竦める兄を見ながら、そんなことを思ってサミュエルは苦笑する。
おとなしく着替えて待っていると、カロリーナと共にレオノアが現れた。化粧を施され、いつもより華やかな姿の彼女を見たサミュエルは時が止まったかのような衝撃を受けた。
「……やはり、似合わないのでは」
「いや、綺麗だ。とても」
自信なさそうに髪を指に巻き付けるレオノアの目をまっすぐに見つめる。
「綺麗だよ、レオノア」
そんな二人を見た兄たちは「これで付き合っていないんだものな」という視線を送っていた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
レオノア は 照れて いる !
進歩 した !?