52.聖なる日の贈り物
レオノアは王都に来てから聖夜を知って、「この世界にもそういうものがあるのね」と思った。クリスマスにも似たイベントは、この国が女神の祝福を受けた日を祝うものだ。そして、それが夜であったがために『聖夜』と言われ特別視される。
(けれど、特に女神に愛されたとされる聖女らしきものがアレでは、どこまで神話を信じていいものかわからないわね)
レオノアが溜息を吐くと、隣のサミュエルが「どうした」と不思議そうな顔をした。大したことではないので、「なんでもないわ」と返す。
周囲を見ると、キラキラとした玉が木に括り付けられている。オーナメントらしきこれが夜になると光を放つそうだ。それはきっと美しいのだろう、と思うけれど、サルバトーレに「子どもにはまだ早いよ。ご馳走を食べてさっさと寝なさい」と言われているので二人はまだ夜の姿を見ることはできない。
「やっぱり気になるけれど」
「……ああ、夜の光景か?君はそういう光景を好むのか」
「綺麗なものは好きよ」
そう言って微笑むレオノアに、サミュエルは「じゃあ、三年後に見に来よう」と告げた。レオノアの目をじっと見つめ、その手を取る。
「十六なら成人だ。二人でここを歩いても許されるだろう」
小指を出して、「約束だ」と笑った。
それを見ながら、少しだけ「そのころには、お互いに良い人がいるのではないかしら」なんて思わなくもない。だが、そんなことを言うのは野暮というものだろう。
(それに、私とサミュエルが『そう』なっている可能性もあるし、未来なんてわからないものよね)
そう思いながら、レオノアはサミュエルの小指に、自分の小指を絡めた。
「約束、ね」
未来の約束がなんだか妙にくすぐったい気持ちだ。はにかむような笑みに、サミュエルは一瞬見惚れてしまう。
「じゃあ、今は聖夜のプレゼントを選びましょうか。あなたに贈ってもよいのでしょう?」
「……俺も君に贈るよ」
異性の友人にプレゼントを選ぶなんて新鮮だ。村でも年の近い女の子同士での物のやり取りはあったけれど、男性に物を贈るのは父と弟くらいのものだ。
楽し気に雑貨屋を見て回るレオノアを見て、サミュエルは頬を緩めた。
そうしたら、店主がレオノアに「あら、今日は別の子と一緒なのね。……ペンダントは受け取った?」なんて話しかけられていた。思わず「は?」という声が出た。
「あら、あれはここで買ったものだったんですね。いきなり渡されたから満足にお礼もできなくって」
「そのお礼にこっちの商品はどうだい?石の種類が同じだし、男性が身に着けてもおかしくないデザインだ」
ゴールドはイミテーションだろう。だが、確かにシンプルで使いやすそうだ。お礼も必要だろう、と考え込む。
「レオノア、その話は初めて聞いたな」
「……?言うほどのことだったかしら?」
友人同士の贈り物だ。レオノア個人としては、「たぶんアミュレットのお返しでしょう」という何とも残念な答えに落ち着いていたが、なんとなくもらいすぎな気がする。お返しにおすすめの品はちょうどいいかもしれないと思っていると、サミュエルが深呼吸していた。
(あいつは押し付けただけ、俺は交換……)
とりあえずは今日の予定ではないからと、視線を移す。
「ねぇ、何か欲しいものはないの?」
「……俺が?」
「そう。私、よその男の子に贈り物って初めてなのよね」
その言葉に気分が良くなった自分に「我ながらチョロい」と苦笑しながら、彼らは揃いの腕輪を購入した。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
くそ鈍い女の子に振り回されてみんなかわいそう。