51.雪の季節
秋はあっという間に過ぎ去っていく。試験はそう難しいものではなく、魔力の操作も毎日使っているからか相当細かい調整ができるようになってきた。成績はまだ上位を維持できている。
地味な髪留めで髪をきっちりとまとめ、眼鏡をかけたことで、レオノアを浮ついた目で見る人間がいなくなり、マリアの視線は少し外れたようだ。やはり方向性は間違っていなかった。
寮の部屋で鏡越しに自分を見つめる。そんなに気にされるほどのものだろうか。レオノアはそう首を傾げる。もっと手をかければ確かに相応に美しくなるだろう。だが、今の自分がこの学園で嫉妬を受けるほどとは思えない。
(それも、しばらくはないけれど)
学園は冬期休暇に入る。それにあたって、寮も閉鎖される。レオノアは冒険者ギルドの宿泊施設を利用する予定だった。それを聞いたカロリーナがサルバトーレに「レオノアちゃんとお泊りするー!!」とねだって、また泊まらせてもらうことになった。
そこにサミュエルの「そんなところで泊まって、何か起こったらどうする」などという心配があったことなんてレオノアが知る由もない。
部屋を片付け終わると、荷物を持って外に出た。寮に鍵をかけて、歩き出す。
雪がしんしんと降り積もる。寒いな、と首元をきゅっと握った。それでも門までは歩く。
門を出ると、温和そうなおじさん守衛がぺこりと頭を下げた。それに同じように会釈を返す。入学時の感じの悪い守衛は、ならず者を校内に入れたと首になったらしい。牢に入っているという話は噂で知っているが、「せっかく仕事を手に入れたのにね」としか思わなかった。
「よし、乗れ」
馬車からサミュエルが顔を出した。扉が開くと、レオノアの手を取る。
「荷物はこれだけか?」
「ええ。ありがとう」
荷物を先に預けると、馬車の中に入った。温風を出す魔道具が設置されているのだろう。温かい。ホッと息を吐いたレオノアは眼鏡を外すと、それを空間魔法内にしまう。
「なんだったんだ?さっきのダサい眼鏡は」
「これをかけていたら、なんだか無視してもらえることが多くなったの。顔が隠れる方が学園で過ごしやすいなんて……もっと早く知りたかったわ」
その言葉に、サミュエルは眉を顰めた。レオノアに相談を受けていたこともあって、彼女に目を付けていた女に察しがついた。しつこいな、と溜息を吐く。
レオノアは外に目を向けると、「真っ白ねぇ……」とどこか感嘆するような声で呟いた。
「雪がたくさん降るせいで、ダンジョン以外で冒険者活動ができないのは困りものだけれど、見ているだけなら綺麗ね」
「そのダンジョンもまだ封鎖されているだろう。大人しくしているんだな。……錬金術の依頼なら回せるかもしれないが」
「そう?それなら、少しだけ回してくれると嬉しいわ。課題もあるから、あまりたくさんはできないけれど」
「学業が優先だな」
そうやって話していると、そう経たないうちにサミュエルの家へと到着した。
やはり先に降りて、レオノアに手を差し出してくれるサミュエルは紳士らしい。少なくとも、学園で出会ったほとんどの貴族子息よりもよほどそれらしかった。
不思議なものだな、と思う反面、ルカは紳士的だったことを思い出して苦笑する。おそらく貴族だと思われる彼だが、学園で出会うことはなかった。もしかしたら学年が違うのかもしれない。
「どうした?」
「何もないわ。ありがとう」
もらったペンダントの意味まで考え始めていた彼女は、サミュエルの声で我に返った。あれから会えていないルカの気持ちを一人で考えてもわからないだろうと気を取り直して、サミュエルの手を取って馬車を降りた。
「聖夜にはご馳走も出るぞ。期待していろ」
「やはり宿泊費をお渡しするべきだと思うのだけれど……」
「兄さんがいいと言っているからいいだろう。カロリーナ嬢も君が来るのを楽しみにしているし」
サミュエルはそう言うけれど、やはり申し訳ない気持ちが大きいレオノアだった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
ルカはあのあとからめちゃくちゃ忙しかったので会えてない。