50.胸に君との思い出を
食べ歩きの後は、本を見に行った。そこで、ルカとウィルは軽く眉をひそめたが、レオノアはホクホクと物色していた。
(国立図書館で紛失したものと一致するな。……後で調べさせるか)
そんなことを考えていると、しょんぼりしたレオノアが現れた。めぼしいものがなかったのだろうか、と苦笑しながら声をかける。
「ここ、出ましょう」
レオノアがこう言っているし、きな臭い店にこれ以上いる必要もない。三人はすぐに店を出た。そして、理由を尋ねれば「異常に高いし、中に国立図書館の印が付いた本もあったわ」と眉を顰めた。それで違法だと察した。
ぷんすかしながら、「なんで図書館の本があるのかしら。管理はどうなっているの」と言っているレオノアを見ながらルカとウィルは目を合わせて溜息を吐いた。おっしゃる通り、というやつである。
「次はあっち行きましょう!魔道具を見たいの」
レオノアが二人の腕を引っ張る。早く、というような彼女に従って、彼らは魔道具の屋台へと向かった。
屋台には火を入れると蝶が舞うような光が現れるランタンなどの生活雑貨や、光る玩具などが置いてある。
「この指輪、目つぶしができるらしいわ」
「防犯にいいかもな。逃げる隙くらいにはなる」
「これは……好みの匂いを出す魔道具か」
「それ、食いしん坊の人が買ったらお肉の匂いとかになるらしいわ」
「……寝る前にそういう匂いは腹がすきそう」
ウィルが目くらましの指輪の会計をしている間に、ルカはレオノアと一緒に面白魔道具を見ていた。くるくると回る扇風機のような魔道具を見ながら「夏場に良さそうね」「でも、手から離すと止まってしまうみたいだよ」なんて話しながら、歩き回る。
会計が済むと、雑貨屋の屋台へと向かった。レオノアの目的である髪留めを探す。シンプルで使いやすそうなものばかり見ている彼女に、ルカは飾りのついたものを見せて「こういうのには興味ないの?」と尋ねる。
「使う機会があまりないじゃない」
さらっとそう言って銀の髪留めを手に取る。地味なくらいでちょうどいい。でないと、どんなことをされるかわかったものではない。
最近はあまり絡まれないと言っても、レオノアはマリアのことを警戒はしていた。なんとなく、ではないがまだ『終わっていない』気がするのだ。度なしの黒縁眼鏡を見て、かけてみる。
「どう?」
「似合ってないよ」
ルカから間髪入れずに返ってきた言葉で「じゃあ、学園用に買おうかな」と検討を始める。彼女自身は自分の容姿にあまり興味がないが、少し反応を見たところ、どうやら髪を染めたくらいではまだ目立つらしい。これ以上不興を買って動き回られるよりは変装でもしておいた方が気楽かもしれない。
そんな実利しか見ていないレオノアを見ながら、ルカは「もったいない」と思う。
(あの女、本当に消えてくれないかな)
マリア・ハーバーが居なければ、レオノアもここまで容姿を隠そうとしなかったはずだ。
そう思いながら目線を逸らす。すると、偶然金色の美しいペンダントが目に入った。装飾はサファイアのクズ石を使用しているのだろうか。キラキラと美しいそれを手に取った。
(似合う、だろうな)
気が付けば、ルカはそれを購入していた。
目的のものを手に入れて嬉しそうなレオノアと屋台を離れる。
もう周囲が暗くなり始めていた。学園の近くまで彼女を送る。
別れ際、ルカはレオノアを抱き寄せた。そして、先ほど買ったペンダントを着けると柔らかく微笑む。
それは、彼の想像通り、レオノアによく似合っていた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ルカ、がんばった。




