5.王都へ
レオノアは暮らしていた村から一週間かけて王都へとたどり着いた。
美しい街並み、行き交う人々はにぎやかで華やかさを感じさせる。その一方で少し道を外れれば、浮浪者の姿がある。
表面的には美しいが、暗い一面もある。それが、レオノアから見た王都ロンゴディウスであった。
(まぁ、そんなもの、どこの領地もそんなに変わらないけれど)
いや、そもそも人間が生きる世界というのがそういうものなのかもしれない。
そんなふうに考えながら、これから通うことになる学園へと足を進めた。
決して路地裏などに迷い込まないように、広い道を選んで、地図通りに進む。
幸いにも、王都まで連れてきてくれた神官が近くの教会まで馬車に乗せてくれたし、地図もくれたため、徒歩で向かうことができる。もし、王都に入ってすぐに放置されていたならかなり困ったはずだ。
2,30分ほど歩いただろうか。レオノアは大きな門の前に立っていた。
その前には守衛の男が立っており、レオノアは声をかけて、入学証明書を見せる。男は確認すると、非常に面倒そうに門を開き、「行け」とだけ言う。
「えっと……どこに……?」
「ちっ、そんなこともわからないのか。平民は」
その態度で、この先の生活にかなりの不安も覚える。自分が侯爵令嬢のままであれば、彼はきっとこんな態度を取らなかっただろうと考えるとどこか苦いものがこみ上げる。
不快さを呑み込んで「ええ、王都もこの学園も初めてで」と困った顔を作ると、彼は渋々、平民用の寮への道を示した。
かなり適当ではあったが、方向がわかっただけマシか、とお礼を言って門を潜った。
「……平民というだけであんなに横柄な態度を取られるのね。わかっていたことではあるけど」
これが大人の態度であるのだから、溜息しか出ない。
指さされた方角へ進むと周囲と比べれば建物の傷みを感じる建物があった。とはいえ、初めからそうではなかったのだろう。平民が住むにしては良い建物だ。
扉を叩くと、気の強そうな女性が顔を出す。
「なんだい」
「今日からここに住むことになりました。レオノアです」
自己紹介をすると、女はそっけなく「アタシは通いでこの寮の管理をしているリタ」と名乗って、乱雑に鍵を投げる。慌ててそれを受け取る。落とさなくてホッとした後、顔を上げる。
「今日からはアンタがここの管理もするんだよ。アタシは食材の調達と朝・晩の飯だけ作りに来るからね」
「え」
まだ十二歳の子どもにそんなこと任せてもいいのか、と固まっていると、女はもう姿を消していた。
少し考え込んだ後、「いや、逆に都合がいいわ」とレオノアはにんまりと笑った。
貴族が誰も住んでおらず、管理人もいない。時間にだけ気を付ければ、レオノアは誰の目も気にすることなく、自分のやりたいことができるというわけだ。
管理を任せたのは彼女の方だ。であれば、文句を言われる筋合いもないだろう。
髪色を隠すのにも思ったより苦労はしなさそうだ。他に平民がいなければ。
「現時点で私しかいないようだから、心配はなさそうだけど」
レオノアは楽しそうに鼻歌を歌いながら、寮の中がどうなっているのか探検気分で歩き回った。
その過程で一番日当たりのいい部屋と、彼女の趣味に必要な冷暗所、倉庫代わりの部屋を確保して荷物の整理を始めた。
一応は貴族が通う学園の中にある建物だ。危険なこともそうは起こらないだろう。守衛だって態度は悪くとも、通う学生のほとんどが貴族である以上、警備に手は抜かない。貴族に何か害があってはクビになるだけでは済まない。
思わぬ収穫にレオノアはホクホクしながらも、掃除を始めた。
「これ、管理しているとか言っていたけど、掃除とかぜっっったいに、サボっていたでしょう!」
だいぶ埃っぽかった。
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