49.秋の収穫祭
抜き打ちテストが行われて、クラスの数名が補習になって頭を抱えているのを見ながら、レオノアは教室を後にした。今日から数日間、王都では大規模なお祭りが行われる。ここで遊んでいる暇はないというようにウキウキしながら寮へ戻った。
すぐに着替えて髪を整える。冒険者活動をしている時のような動きやすい服装ではなく、少し品の良いお嬢さんという雰囲気のワンピースだ。アミュレットが売れているので、その報酬でよそ行き用の服をいくつか見立ててもらって購入した。そのうちで一番お気に入り服だ。ポシェットを斜め掛けすると、靴を選んで外出した。
(こちらのお祭り……村のものとは規模が違うみたいなのよね。楽しみ)
町中を歩いていると、「レナ」と声をかけられて振り返る。
そこには、ルカとウィルが並んで立っていた。最近、あまり姿を見かけなかったのでなんだか嬉しくなって駆け寄った。
「久しぶりね。最近、あまり見かけなかったけれど、忙しかったの?」
「まぁね。……最近はどう?」
「そうね、平和よ。お祭りにもこうやって来れているし」
「ひとり?」
「ええ」
ニコニコで頷くレオノアに二人は頭が痛いというような顔をした。彼女のように容姿が整っている子どもはあまり一人で出歩くべきではない。祭りに乗じて人攫いが現れる時だってあるのだ。
ルカたちの様子を見て「あ、これはまずかったみたい」と察して、レオノアは居心地悪そうにした。
「……もしかして、誰かと一緒じゃないと参加できないの?」
不安そうなレオノアに、二人は心配になったのだと説明した。少し危機感が薄いのではないかとも。
その言葉に、「そういうものなのかしら」とレオノアはあまりよくわかっていない顔をしていたが、ルカとウィルが言うのだから危険なのかもしれない、と素直に頷いた。けれど、祭りは楽しみたい。悩んでいると、「少しで良かったら、僕たちにエスコートをさせてくれる?」とルカが手を差し伸べた。
「いいの?」
「ま、俺たちも祭りを見に来たわけだしな!」
にかっと笑ったウィルにホッとしたような顔をする。そして、ルカの手を取って、「よろしくね、ルカ」と微笑んだ。ルカの頬に赤みが差す。
空気を変えるように、ウィルが咳払いすると、ルカが居心地悪そうな表情に変わった。それを不思議そうに見つめて、レオノアが「私、あっちの串焼きが食べたいの」と屋台を指さした。
「串焼きね。他はどこに行きたいんだい?お姫様」
「ふふ、ルカったら王子様みたいね。そうね……あっちの屋台で髪留めを見たいわ。甘いものも食べたいし、本を売っているところもあるみたい」
「向こうには生活用の魔道具も売っていたぞ」
「本当!?行ってみたいわ」
たくさん気になるものがあるのだと笑うレオノアを、ルカは優しい瞳で見つめている。
まずは食事から、と三人は屋台へと向かった。串焼きを買い、並んで座って食べる。豪快にかぶりつくレオノアを見て、ルカはようやく肉にかぶりついた。濃いタレと肉のコンビネーションに「これはおいしいな」と呟く。
(温かい料理とは美味なものだな……いや、隣にいるのが彼女だからかもな)
舌鼓を打つレオノアにウィルが呆れたようにハンカチを渡している。いつの間に持ってきたのか、果実水を用意していた。
「急いで食べなくてもいいだろ。ほら」
「だって、おいしかったんだもん」
「もん、じゃねぇよ」
ぷくりと頬を膨らませる姿は普段よりも子どもっぽい。
(今日は、いろんな表情を見せてくれるな)
ルカはクスクスと笑って、世話を焼かれるレオノアの姿を眺める。
――今日が、思い出に残る日になる。そんな予感がした。
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