45.変わったこと
ルカとウィルにもアミュレットを渡すと、「……いいの?」とガチな声で聞かれた。これはお値段的なものを知っている。胸元からお金を出そうとする二人を止める。
「試作品だから」
「それでも、材料費くらいはかかっているだろう?もらうだけの関係は不健全だ」
「いえ、なんか材料費以上の金額を出そうとした気がしたのよね」
「そりゃ、作るにあたっていろいろ手間もかかってんだろ」
それはそうだが、少し前にシュバルツ商会でたくさんもらっているので少し怖い。一応は空間魔法でしまい込んでいるが、たくさんあるのはちょっと怖かった。サルバトーレに「あまり冒険者ギルドや国営銀行に預け入れるのはおすすめしない」と言われたためにそうしているが、正直銀行に預けておきたい気持ちだった。おとなしく言うことを聞いたのは、「平民だから」なんてバカバカしい理由で預け入れていた金を盗られた人がいるということを知っているからだ。
小さな声で「こんなところでやり取りをしては、奪われてしまうわ」と苦笑すると、彼らも納得したのかとりあえず頷いた。金を払うこと自体はするつもりだ。
「最近、王都も物騒だからな。貴族が通う学園の方でも、門番がならず者を学内に入れたとして大きな騒ぎになったと聞く」
「銀行の扉の前で『金を返してくれ』と泣く男性の姿も見たね。ひどい話だよ」
実際に目撃したからこそ、とても利用できないとしか思えない。間違えている。だが、平民と貴族の間にある力の差は大きく、逆らうこともまた難しい。
貴族やそれに連なる人間が富を独占し、下々に還元することもない。だからだろうか。年々、貧民が増えているのは。それに伴って、治安も悪くなってきている。
権利を主張するならば、きちんと民が豊かな生活を送れるように統治してほしいものだ。
「……レナも、最近何か変わったことはないか?」
「変わったこと……」
ルカに問われて少し考えた後、「どうせ二人も貴族な気がするし、話しておこう」という結論に達して頷いた。
「実はね……」
レオノアは素直に、推測ではあるが第一王子とその側近に一瞬構われたということと、成績だけでマリアに妬まれているらしいということを話した。
本当はもっと傲慢で、どうしようもなく醜悪な理由であったが、レオノアに彼女の内心を知ることなんてできはしない。あまりにも育った環境や、性格が違いすぎる。理解することなんてあまりにも難しい。
だから、これはただの推測であると前置いた。
「……醜悪な」
珍しいルカの嫌悪の表情に、ウィルのドン引きの顔。それを見てレオノアは苦笑した。
あくまでも理由は仮定に過ぎない。それでも彼らは「やりかねない」という判断をしたようだ。
「それが理由でこれを?」
「ええ。仲が良い人に怖い顔をされたくはないし」
「それはそうだ」
笑うウィルにレオノアは真剣に頷いた。
「それはそうと……心配ではあるな。夜は大丈夫か?」
「寮に結界を張っているわ」
それに加えて、サミュエルがレオノアに内緒で魔物を何体か手配している。
「門番も変わったというし、少しはマシになったわ」
「魔力にも限りがある。……逃げることも視野に入れた方がいいかもしれないね」
そう言ったルカの表情は、とても悲しそうで、レオノアはなぜかそれが気になった。
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