43.碧の忠告と黒への相談
イザベラからの警告を得て、レオノアはサミュエルに相談すると「君の異母妹って本当に嫌な女なんだな」と言われた。その通りである。レオノアだって、まさか、何もかも持っている異母妹から妬まれるなんて思わない。
「嫌になってきたわ。試験の点数を平均くらいまで落とせばいいかしら」
「成績は維持しておけ。教師からの評価を失うのは痛手だろう。……男は避けるべきだろうな。だから女の友人を作れと」
「貴族はよほどのことがない限り平民と関わりたがらないわ」
「……ノブレス・オブリージュを体現するような貴族はいないのか?高位の貴族ほど、おおよそ高貴な身分だからこそ下々のものを助けようとするものだけど」
「あら、アマーリアの両親の家を見れば、そんな意識がないことなんてすぐにわかるというものだけど」
皮肉を込めて言われた言葉に、サミュエルは苦笑した。彼女の生家は侯爵家だし、母親の実家も侯爵家だ。それを考えると、貴族に頼ろうとする意識がないのは当然のことだったかもしれない。すでにその身で、いかに彼らが頼りにならないかを知っていたのだ。
「デイビス公爵家あたりは綺麗な政治で有名だけどね」
それを聞いてレオノアは少し考え込む。
「なるほど……先々代に王家の姫が嫁いだ公爵家であれば侯爵家より上だものね。味方にすれば、確かに助けてもらえるかもしれないわ。……けれど、あの子、それをすればほぼ確実に逆上するわよ」
他者から「我慢や忍耐が備わっていない」なんて言われるマリアだ。自分の思い通りにならないことで、より過激になることは容易に想像ができた。
それに、周囲に誰かを配置されたところで、その『誰か』が裏切らないという確信がない。
「イザベラ様は『あの程度の魅了なら』なんて言っていたから、マリア・ハーバーには魅了の力があるということ。心が強ければ確かに操られることはないのかもしれないわ。けれど、人間はそんなに強い生き物ではない。心が弱ることだってある」
「……確かにな。だが、直接的な手を使ってきているんだ。逃げ回るだけで大丈夫なのか?」
心配そうなサミュエルに苦笑する。
「……ねぇ」
「なんだ」
「この国を出て、私はやっていけると思う?」
「……そこまでなのか」
「いえ、これ以上に何かあったならという仮定の話よ」
肩を竦めるレオノアに、サミュエルは「隣のエデルヴァード帝国」と口に出した。
「あそこならば能力さえあれば生きていけるだろう。一応、商会の支部もあるから俺も一緒に行けるし」
レオノアは「なんでサミュエルも一緒なんだろう?」と思ったが、あまりに真剣なので口には出さなかった。サミュエルは頼りになるので近くにいてもらった方がありがたいという気持ちもある。
「その前にできることはやってみたいの。家族のこともあるし、移住するとなるとなかなか大変でしょう?だから、とりあえず魅了をなんとかするアイテムを作ることができたならって考えているのだけれど」
「そうだな。家族大好きな君だ。一人だけで旅立つなんて辛いだろう。……魅了となれば精神異常耐性か状態異常か」
サミュエルが本を探し出す。それを見ながら、「こういう一緒に考えて、手助けをしてくれるところが好きだなぁ」と思う。
二人並んで本を探すこの時が楽しいと思う。
落ち着いた表情で本棚を見上げるレオノアをちらりと見て、サミュエルは「帰したくないな」と思った。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
カロリーナがここに居たら「そこで『俺と一緒に逃げてくれ』って言うのよ!!言え!!」って言ってたと思う。