41.異変
トラブルに見舞われたが、不味いポーションで回復はしている。レオノアはしっかりと学園に通っていた。だが、ここ数日で少しずつ学園の雰囲気が変わっているのを感じていた。
女子はほとんど今まで通りだ。稀に睨みつけられたりもするが、元々無視はされている。悪感情を向けてくる令嬢が数名いるのは気にかかるが、それでも危害を加えられているわけではない。
問題は男だ。それも教師を含めた、ほとんどの男。レオノアを憎悪したような目で見て、嫌がらせをしてくる。鞄が水没しているところを見たときは唖然とした。それでも、身体的な危害を加えて来ないのは、学園にいるほとんどの女性と、少数のまともな男性が止めているからだ。その中に第一王子ルーカスが入っているのは運が良かっただろう。
それにしても、とレオノアは深々と溜息を吐いた。
(強制で通わされているのに、こんな嫌がらせをされるのは本当に困るわ。理由もわからないし……。成績で妬まれている……?今更?)
理由がわからず、戸惑いが大きい。レオノアと話すことが多い教師たちは「理由なく、勉強熱心な生徒を傷つけることなどあってはならないことです」と憤慨している。注意もされているが、余計に憎しみが燃え上がっている気がする。異常だ。
「少し、相談をしてみた方がいいわね」
図書室に寄ろうとしても、待ち伏せをされている。厄介だ。
レオノアは静かに引き返して寮に戻った。
寮に戻ったレオノアが外に出ようとすると、何かがいる気配がした。学園でのできごともあって、警戒するべきだと判断し、倉庫から煙幕を取り出した。窓から下に落とすと、煙が広がる。数名の明らかにならず者といった様子の男が咳をしながら走って、少しだけ離れるのを見て苛立たしそうに眉をひそめた。
「あら、私が目障りな方がいるのかしらね」
そう呟いたが、どこでどういった恨みを買ったかまるで見当がつかなかった。こうなってみれば、あのメドゥーサも自分を狙ったものなのかと思えて苦笑する。
そんな時だった。
「全く……あの方々って、門番すらちゃんとできないのかしら。賊を学園内に招き入れるなんて、万死に値しますわ」
長い緑色の髪は緩く巻かれ、大きな青緑色の瞳は不快そうに男たちを見つめていた。そして、周囲には騎士らしき人間が複数。緑色の少女は「突き出しておしまい」と口元を隠すように扇を開く。
その全てが捕らえられた頃、彼女は上を見上げ、レオノアを見てほほ笑んだ。
「早くここを開けなさい。扉を壊しても構いませんのよ?」
風が彼女の言葉を運ぶ。そのおかげか、脅し文句がはっきりと聞こえたレオノアは顔を引きつらせた。
すぐに扉を開けると緑色の少女がにんまりとレオノアを見つめながら自らの名を口にした。
「はじめまして、レオノアさん。わたくしはイザベラ。イザベラ・アダムスよ」
レオノアの耳元に唇を寄せて「碧の魔法使い、の方がわかりやすいかしら、赤?」と囁く。驚いた顔のレオノアに満足したのか、楽しそうに寮の中に入っていく。
「さて、平民のお茶ってどんな味かしら」
マイペースに歩いていくイザベラを「応接間!応接間はこちらです!!」と引き留めて、カロリーナにもらったちょっといいお菓子を用意した。
レオノアはお茶を用意しながら、「なんで貴族のお嬢様の給仕っぽいことをしているのかしら」と少し疲れた頭で考えていた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
イザベラはかなりごーいんぐまいうぇい系お嬢様。