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4.転機


 赤い髪に赤い瞳。

 レオノアは自分の中で目立つそれを隠したかった。何か不都合があったときに連れ戻される可能性を考えると、彼女にとってそれは邪魔でしかなかった。

 幸いと言っていいのか、自分の解熱剤を作ってくれた薬師のおばばが、森の中にある薬草と引き換えに染粉を作ってくれた。おかげで髪は今の両親と同じ栗色にできている。彼らは少し複雑な顔をしたけれど、レオノアが目立ちたくないのだと言えば理解を示してくれた。


 レオノアを拾った男の名はジャン、女の名はエラという。

 彼らは急な事故で娘を亡くしたばかりの夫婦だった。そんな時に現れたレオノアを、彼らは自分たちの娘として、迎え入れた。

 レオノアにとって、彼らは実の親よりも親らしかった。娘を気にかけ、危ないことをしようとすれば怒り、良いことをすれば全力で褒めた。愛されているという実感があった。

 自らの特徴を隠して、ずっとこの場所で暮らしたいと願う程度には、レオノアも彼らを愛し、慕った。


 けれど、レオノアが十二歳になったころ、転機は訪れる。


 この世界には魔法がある。

 毎年、十二歳になる子供は魔力があるかどうかを鑑定される。

 国が派遣した神官が各地を回り、貴族・平民を問わず、一定の魔力量を持った子どもを見つけ出して国立の学園に入るように指導する。

 これは魔法を悪用させないためであり、魔力の暴走による重大な事件・事故を防ぐ目的もある。とはいえ、おおよその場合に該当するのは貴族だ。平民で学園に通うほど魔力の高い子どもは少ない。いたとしても過去に貴族の血が入っていたり、貴族と縁のある商家の出だ。



「レオノアさんは非常に強い魔力を持っているようですね……」



 この地を訪れた神官は困惑するようにそう告げた。

 レオノアは本来ならば王家にすら嫁げる家の出身だ。侯爵家出身で魔力が少なければ、そもそも、生まれたことすら秘匿されかねない。ある意味では多くて当然だった。

 しかし、そうなれば王立の魔法学園への入学は強制となってしまう。

 レオノアは家族と離れるつもりがなかったため、非常に困った顔をした。


 レオノアは平民には魔法が使える子どもが少ないと聞いていた。だから、このまま両親と六年前に生まれた弟と家族であるために、侯爵家で習ったものでさえ一切使わなかった。

 だが、やっぱり元が貴族令嬢であるためか魔力が強かったらしい。


 高位貴族に嫁ぐ条件の一つに魔力の高さがある。実際に彼女の産みの親は非常に魔力が高い者同士だった。

 そもそも、魔力の差があまりに大きすぎると母体に強い影響が出て母子共に死んでしまうといったケースが多い。だからこそ平民は騙されることはあっても夢を見ることはそう多くない。



(それでもヒロインを身ごもり、産み育てた愛人はあの男を愛していたのか、自分だけは死なないとそう思い込んでいたのか……)



 他人が考えていることはわからない。レオノアはゆっくりと首を横に振る。

 実際に生き残り、侯爵家へとやってきたのだ。見た目通りの儚げな女ではないのだろう。


 魔力を暴走させて他者の害になることは本意ではない。そもそも、平民が国に「学園に入れ」と言われて断ることなどできはしない。

 貴族の通う学校に通うことになってしまったということは異母妹とまた再会することもあるだろう。少し不快な気持ちにはなるけれど、彼女の感覚としては今の方が幸せだ。高位の貴族と平民がそう簡単に出会うこともないだろう。嫌いならば隠れればいい。

 手は荒れ、髪だって染めて、かつてほど艶があるわけではない。平民の子供相応、といったものだ。



レオノア()がアマーリアだ、なんて気が付かないかもしれないわね)

 


 そう思って彼女は苦笑した。

 誰に泣きついても、魔力が高い子は学園に通わなくてはならないのだ。

 貴族の多いところに行っても虐められる気しかしないが、強制なのだから仕方がない。

 貴族がやることは容赦がない。それをレオノアは心底思い知っている。意地でも行きたくはなかったけれど、行かなければ家族が国に捕まってしまう。



「こうなったら、勉強を頑張るしかないわね。薬師になるにも知識は必要だし」

「姉ちゃんならやれるよ!」



 学園に行って好成績を修めれば、王城での勤務……公務員への道が開けることを神官から説明されていた。さすがにそれは、元父親と会う機会などもありそうなので嫌だが、今の希望である村の薬師になる勉強をしてもいいし、冒険者になるという選択肢もある。

 レオノアは「物事はポジティブに考えなきゃ」と心配する家族に笑顔を見せた。不安ではあるけれど、家族に過剰に心配をかけたくない。


 入学が決まってから、畑の世話をしながら近くの町の教会で週に何度か勉強を教えてもらう。基本的な学問は教会で学んでから学園に入ることになった。妙なところが親切だ、なんて考えながらもありがたくそれを受け入れた。貴族であった期間よりも、平民として過ごした時間の方がもう長い。初めからすべてを学びなおす必要があった。


 学園で高等部になる十五歳からがゲーム「乙女の祈りは誰が為に」の舞台だった。しかし、アマーリア改めレオノアは強制的に悪役令嬢を退場させられている。



(だから……勉強してれば良いわね)



 国からの奨学金もあり、冒険者ギルドに登録すれば小遣い稼ぎもできる。ゲーム内のヒロインもそうして生活していたはずだ、とレオノアは少しだけ気軽に考えることにした。悪いことだけ考えていても仕方がない、と切り替えられるのは前世の影響だろう。



(まぁ、この人生のヒロインは侯爵家を乗っ取っているからバイトの必要はないけれど)



 それでも、多少の恨み言を吐いてしまうのは仕方がないことだろう。


読んでいただき、ありがとうございます。

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