38.王都ダンジョンへ2
冒険者証を提示し、ダンジョン内に入ることを許可される。そのまま洞窟内に足を踏みいれた瞬間、周囲の空間が歪む感覚がした。その違和感が落ち着いたころ、周囲を見回すと先ほどとは違う場所にいた。
「階層毎に設置されている魔法陣を起動するとダンジョン前に戻れるのよね」
「それか、ダンジョンを踏破するか……だな」
ダンジョンの踏破は今の彼らにとって現実的な話ではない。奥に行けば行くほどに魔物が強くなり、現在確認されている五十階層ではAランク冒険者が活動しているが、更に深層があるということしかわかっていない。レオノアがきっちり前世の記憶を覚えていたならばわかったことも多いが、彼女は時がたつごとに忘れていた。
三人は足を進める。カサカサという音は虫系の魔物である可能性が高い。一層の中心部へ入ったころ、レオノアたちに向かって飛び込んでくる小さなものがあった。
――今回の目的であるブラッドバッドだ。
「風よ」
周囲を渦巻く風を、魔力をもって強制的に動かし、刃とする。それを飛ばすと、ブラッドバッドの翼を切り落とした。
(的が小さいと厄介ね。いくつか失敗してしまったわ)
全て綺麗に切り落とせたならば、処理の手間が省けたのに。レオノアはそう考えながら、ブラッドバッドの頭を蹴飛ばした。
それを見たルカも「光の矢よ」といくつもの光魔法の矢を構築し、放つ。それはまっすぐに飛んでいき、胴体を潰す。
「ああ、意外と難しいね。胴体を落とすと翼に血の臭いが移るのか」
「お、おまえら……武器を使え!」
「あら、元々魔法が武器みたいなものだけど」
「飛んでいる相手に剣を振るっても、そうそう当たるまい」
しれっとそう言ってのける二人に溜息を吐いたウィル。後ろから迫ってくるブラッドバッドの姿を捉えた途端、何度か剣を振るう。それは確実に胴と翼を切り離していた。それを見たレオノアとルカは小さく拍手をした。
彼らはウィルを見てやれるということはわかったが、自分たちができるとは思わなかった。
「それにしても、暗くって嫌になるわね」
「……そういえば、正規のルートはもっと舗装されていると聞いたような」
ルカがそんな疑問を口にした瞬間だった。
ブラッドバッドの大群がやってくる。しかし、それらからは何か追い詰められたような必死さを感じた。
その一部が落ちる。それは石になっていた。
「……このダンジョン、蛇が出るのかしら」
その光景をレオノアは知っている。
ガルシア侯爵領のダンジョンで見かけた蛇の魔物がその力を使っていた。
「そんな話は初耳だな。ウィルは」
「少なくともこのダンジョンは二十六階層から三十階層での報告例しかないはずだ」
レオノアは二人を掴んで岩陰に身を隠す。そして、隠遁の魔法を使用して唇に人差し指を当てた。ルカとウィルはそれに頷いて息を潜める。
少し経つと、ズルズルと何かが這うような音がする。シューシューといっているのは息遣いだろうか。
おそらくその瞳は赤。光が散ると、石が落ちるような鈍い音がする。その後、潰されるような音が聞こえる。捕食しているのだろうということが予想できた。
(早く戻って、報告と討伐部隊を出してもらわないと)
少なくとも、Eランクの冒険者がいるところに現れていい魔物ではない。三人は顔を見合わせて頷いた。
逃走あるのみだ。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ガルシア領の時はサミュエルが魔物に詳しいうえに今の彼らより強かったのでなんとかなってた。
今は初心者三人なので逃げ一択。