37.王都ダンジョンへ
ヤバい女に目をつけられたことなんて、全く気が付いていないレオノアはその日のホームルームが終わったら寮に戻って着替える。そして、冒険者ギルドへと向かった。ルカやウィルが来ているかどうかを確認するようにきょろきょろする。
「レナ!」
すると、名前を呼ばれた。ルカが大きく手を振っている。それに気が付いて小走りで近づくと、「来ていたのね」とほほ笑んだ。
「うん。ウィルも来ているよ、ほら」
難しい顔で依頼を眺めているウィルを確認してレオノアは「本当だ」とクスクス笑う。その様子を見ながら、ルカもニコニコと楽しそうにしている。
「レナはやりたいこととかある?」
「うーん……今は特には。依頼を受けた場所に薬草があればほしいけれど、それくらいかしら」
そんな話をしていると、「だったら、ダンジョンに興味はないか?」と声をかけられた。いつの間にか近くにいたウィルは依頼書を二人の前に広げると、その隣にマップも広げた。
「深くにまで行かなければ十分対応できるだろう。そうだな……安全を考えて十層くらいまでか?」
「一層から十層は蝙蝠とか虫系の魔物、十一層から十五層くらいまではゴースト系の魔物が多いのよね」
「そうだ。ただし、稀に十一層の魔物が顔を出すこともあるそうだから聖水は必要だな」
「あれが有れば、剣でも攻撃ができるしね」
レオノアが以前に作った解呪のポーション。その材料として使った聖水と呼ばれる光の魔力を含んだ特殊な薬剤は、元々、ゴースト系・悪魔系の魔物への対抗策として利用される。特に実態のないゴースト系の魔物には通常、光系統魔法でしかダメージを与えられない。だが、この聖水を剣などの武器にかけることで物理攻撃が当たるようになる。それに加えて、飲むことで身体を乗っ取られることを避けることができる。
「レナ、聖水は持っている?」
「ええ。元々、そろそろ入ってみようか考えていたから」
ランクが上がってから考えていた話ではあった。だが、夏季休暇前にケガをしてしまったら家族に心配をかけてしまう、帰れなくなったら困るなどの理由もあって提案は
まだだった。
「俺たちも持ってるし、だったら挑戦してみてもいいな。ブラッドバットの討伐依頼。ブラッドバットの翼がいるらしい」
「め、面倒……」
ブラッドバット。その名の通り吸血蝙蝠だ。その翼は伸縮性があり、丈夫なため、防水の加工をして野外活動で使うテントなどに使用されることが多い。だが、処理を間違えると血なまぐさくなってとても利用できる状態ではなくなってしまう。
「それ、処理までこっちよね?時間がかかるし、報酬もそんなに良くないように感じるけれど」
「取り扱いの練習くらいの気持ちで受けた方がよさそうだね」
強さ的には妥当だろう。だが、小さな魔物であり、そこまで大きな報酬にもならない。外でゴブリンの集落を倒して、その武器を売り払うなどの討伐の方がよほどいい。本当に取り扱いの練習くらいにしかならない。
「素材採取も含めたら、魔法で焼き尽くすのだって駄目でしょう?」
「なんでも焼こうとするのやめろ。マジで」
「なんでもは焼かないわ。うまみがなくて焼けるものだけよ。これなんて本当に焼くべき」
一番得意なのは火系統の魔法だが、彼女だってそれ以外の魔法を使うこともできる。だから、王都ダンジョンには入ってみたかったこともあって、レオノアは素直に従うことにした。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
素材採取が不必要な魔物はだいたい燃やしているレオノア。