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36.波乱の種


 楽しい時間はあっという間だ。翌日に新学期を控えたレオノアは寮に帰ると掃除を始めた。案の定埃が溜まっている。



(どうせ一人だし、使うところから片付ければいいことだけれど)



 寝具の洗濯や部屋の整理、錬金術に使っている部屋から手を付ける。すっかり慣れたもので、夕方には自分の生活ができる程度には片付いた。

 そして、翌日からレオノアの新学期が始まった。

 学園に向かうと空気感が少しおかしい気がする。周囲を見回すと、不機嫌そうなエイダンの姿があった。何か言いたそうにレオノアを見た後、舌打ちして目を逸らした。態度が悪い。夏季休暇の前、彼の周囲には多くの人がいたが、今は誰もいないことからガルシア家の状況が悪いことがわかる。村で出会ったときのエイダンの態度に思うところがあったので、全然罪悪感がわかない。

 空いている席に座ると、「隣、いいかい?」と声をかけられた。



「……どうぞ、殿下」

「ありがとう。ウィリアム」

「は」



 相手は第一王子ルーカス・ロンゴディアだった。ルーカスを挟んで向かい側にはウィリアム・アスールが座る。

 思わぬ事態に頭が痛くなったが、害意はなさそうなので「隣に座っているだけだし」と気にしないことにした。レオノアは図太かった。



(なんか、妙に見られているような気もしたし視線除けにちょうどいいかな)



 本当に図太かった。

 そして、視線を感じるという感覚も間違いではなかった。

 単純に、数日だけでもシュバルツ商会とカロリーナに磨かれて彼女の美少女度合いに拍車がかかっていたのである。婚約者が近くにいる男子生徒は脇腹を肘でどつかれたり、足を思いきり踏まれたりしていた。

 本人に自覚がないのが、更にたちが悪い。幸い、どう見てもレオノアに男への興味がないことで難を逃れている。

 ただ一人、マリア・ハーバーはそんな周囲の様子を見て気に食わないという目をしていた。表情は笑顔なのに、目だけは冷たい。



(なに?わたくしが男子生徒と一緒の時は親の仇でも見るかのような目で見てくるし、集団でやってきて注意してくるのに……しかも()()()()じゃない。()()()()はわたくしなのに)



 考えていることを口にしないだけ賢いといえよう。

 濃い桃色の瞳がレオノアの方をじっと見つめていた。

 確かに美しい顔立ちをしていた。優秀であることも知っているから手元に置いて侍女にでも()()()()()()()と思っていた。幸せになるべき自分の周囲には美しいものだけがあるべきで、レオノアという少女はそのコレクションにふさわしいと思っていた。だが、自分の()()()るようではいけない。

 前世の記憶を持つ少女はあまりにも身勝手だった。


 逆恨みにもほどがある。

 マリアはルーカスの婚約者ではないし、彼はモノではない。レオノアはまだ少し声をかけられたことがあるだけで信頼関係があるわけでもない。

 けれど、その少女はこの世界が自分のための世界であり、自分の思い通りにならないことなどあってはならないと固く信じていた。


 でなければ、悪役令嬢になるはずの美しくも悪辣で、毒花のような異母姉が姿を消すはずがない。



(……でも、ただの平民だもの。消そうと思えばいつでも消せるのよね)



 だが、それでは大した悲劇にはならない。

 マリアは自分をこけにしてきたルーカスたちごと追い込みたかった。

 少し時間が必要だ。そう判断した彼女はゆっくりと視線を外した。元々、本命はルーカスではない。いつかは邪魔になる存在だ。



(わたくしを愛さぬヒーローなんて、要らないし。ふふ、久しぶりにおさらいをしようかしら)



 彼女はレオノアとは違う。乙女ゲーム「乙女の祈りは誰が為に」には推しが居て、ストーリーもある程度覚えている。本来のマリアを塗りつぶすことにも躊躇はなかったし、攻略対象は全て自分のものであると確信していた。マリアを愛さぬ存在はただのバグ。だから、いなくなったらそうなったで『代わり』がいるだろうとしか思わない。


 今、本当に悪と言えるのは、毒花と言えるのはだれなのだろうか。

 それを知る人間はいなかった。



いつも読んでいただき、ありがとうございます。


マリアは転生者。中身はだいぶアレ。

自分勝手だし傲慢。自分の性格のせいでその攻略対象(笑)に好かれていないなんて考えていない。

ルーカスたちはマリアが男の視線を集めるレオノアを嫌な目で見ていたので割って入った。逆効果。可哀そう。

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