34.デート?
レオノアはうきうきとメニューを眺めていた。
チーズケーキや季節のフルーツのタルトなど気になる名前が並んでいる。こういった品物が売っているのは乙女ゲームのご都合主義的なものだろうか。少し悩んでから、フルーツタルトと紅茶を頼む。今はデイビス公爵家の領地で採れた茶葉がおいしいらしい。サミュエルは最近エデルヴァード帝国から伝わってきたというコーヒーだけを頼んでいた。甘いものはそんなに得意でないのだと少し困った顔をする。それなのに付き合わせるのは悪いと顔色を悪くするレオノアに、サミュエルは「ここのコーヒーというものが気になっていたんだ」と返した。
「俺もこういったところに一人で入って、しかも菓子などを頼まないというのはハードルが高い」
「確かに、それはそうかもしれないけれど」
「周りを見てみろ。男一人なんていないだろう?」
そう言われて周囲を見回すと、確かに男性の一人客はいなかった。なるほど、と頷く彼女のもとに頼んでいた品が届いてパッと嬉しそうな表情に変わる。目の前にタルトを置かれるとにこにこする。あまり甘いものを食べる習慣がない彼女は一口食べると幸せそうに頬を押さえた。
(頻繁だと遠慮されるかもしれないが、餌付けはありかもしれない)
目の前にいる友人がそんなことを考えているとはつゆ知らず、レオノアは「おいしいわ」とサミュエルにほほ笑んだ。それだけで心が弾むのだから、サミュエルは「恋とはどうしようもない感情だな」なんて思う。
「そのコーヒーっていい香りね」
「苦味があるが香ばしく、少し酸味もあるか……珍しい味だが俺は好きだな」
「苦いのね……だったら私には合わないかもしれないわ」
「砂糖とミルクを加えれば飲みやすくなるんじゃないか?」
そう指摘されてから、「そういえば前世でもそんな飲み方があったような……」なんて思ったレオノアだったが、すぐに忘れた。どうせそう飲める代物ではない。
全部食べ終わってから店を出ると、サミュエルはレオノアの手を引いて魔道具店へと向かった。
「すごい、見たことがないものがたくさんあるわ」
「この腕輪は覚えているか?」
「ええ、サルバトーレさんがあなたに会いに行くときに渡してきたあれよね」
自衛のためなどと言って、レオノアに相手を拘束する魔道具を渡していたサルバトーレ。それは結局、レオノアに贈与された。「サミュエルに何かされそうになったら遠慮なく使いなさい」と笑顔を向けてくる彼にはサミュエルの気持ちなんてお見通しだったのだろう。それに思い当たって、サミュエルは乾いた笑いしか漏れなかった。
「こっちは軽く魔力を流すと安眠用の良い香りが匂うライトだ。香りは個人で変えることができる」
「まぁ……淡い灯りも素敵ね」
他の魔道具も説明しながら見て回っていると、レオノアも興味深そうに頷き、感想を言う。
「あれ、レナ?」
「……?あら、ルカ。久しぶり。昨日こちらに戻ってきたの」
「そうなんだ。今日は随分と可愛い恰好をしているね。似合っているよ。僕からも何か贈らせてほしいくらいだ」
その時、客の一人がレオノアに気が付いた。
彼はルカ。レオノアと冒険者活動をしている少年だ。
「そうだ、ルカにも紹介するわね。こちらはサミュエル。私のお友達なの。サミュエル、こっちはルカ。ほら、前に話した一緒に冒険者活動をしている……」
レオノアは楽しそうに友人を紹介しているが、紹介されている彼らは全然目が笑っていない。「へぇ、よろしく?」「こちらこそ?」とバチバチやっている。
「おい、ルカ。そっちに……レナ?戻ってたのか!」
空気を読まずにやってきたウィルは楽しそうなレオノアと、目線で相手を威圧しようとしている友人&知らない少年を見て首を傾げた。そして、何か残念なものを見るような目でレオノアに話しかけた。
「おまえ……たまに本当に残念だよな」
「私はなぜ出合い頭に罵られているのかしら」
「ウィル、後で話がある」
ルカの低い声で何かを察したのか、ウィルはしょんぼりした表情を見せた。
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