33.己が思いに気づくとき
翌日、約束通りにでかけようとしていた二人だが、その前にレオノアがカロリーナに捕まった。たまには少しくらいおしゃれをするか、と服を選んでいたのが敗因だろう。部屋から漏れ聞こえてくる声から、そのまま着せ替え人形になったレオノアの様子を察したサミュエルは待つしかないことを悟った。
サミュエルは自分の部屋に帰って本を読みながら待っていると、しばらくしたころに部屋をノックする音と同時に扉が開いた。
「カロリーナ嬢、ノックをしたら返事があるまでは……ッ」
レオノアを見た瞬間、サミュエルの瞳が大きく見開かれた。
カロリーナによって飾り立てられた彼女は、非常に愛らしかった。萌黄色のワンピースがよく似合っている。髪飾りはカロリーナのものだろう。今までこういった服装をしたことがなかったのかもしれない。少し恥ずかしそうに瞳を伏せているところがまた庇護欲をそそる。
「どう、かしら……」
「どう……って……。似合っているよ、とても」
どぎまぎする二人を見たカロリーナは満足そうに何度か頷いて、そのまま「トトにもおしゃれしたわたくしを見てもらいましょう!」と意気揚々と去っていった。なお、カロリーナは今からサルバトーレの手伝いをするので、お店に出ても支障がない程度のおしゃれである。本心では、このまま初々しい二人を見ていたかったが、彼女の最優先事項はサルバトーレなので、潔い判断である。
サミュエルは高鳴る胸を押さえながら、レオノアに手を差し出した。
「じゃあ、出かけようか。その……離れるなよ。君は、可愛いんだから」
レオノアはその手を取って、「え、ええ」と躊躇いがちに頷いた。サミュエルは彼女が褒められ照れている姿を見て、止まらない自分の心臓の音によって認めざるを得なくなった。
――彼女に恋をしていると。
(いつまで……か)
兄の言葉を思い出して、苦笑した。
手放すことなんてできるわけがない。彼女が他の男の手を取るなんて嫌だ。
「ずっと、だな」
小さな声でそう呟くと、レオノアが不思議そうにサミュエルを見上げていた。
「何でもないよ」とほほ笑んで、そのまま馬車に乗るのを手助けする。
「今日はカロリーナ嬢に、王都のおいしいものリストをもらっているんだ」
「そうなの?楽しみ」
甘いものがあればいいな、なんて思いながらリストを確認する。レオノアだけでは入りにくい喫茶店や菓子店、魔道具店の名前が書き連ねられている。それを見ながら、食べる量や使うお金に気を付けなければいけないと拳をぎゅっと握った。彼女は別におごってもらうつもりはなかった。
「そういえば、服を借りてしまったけれど、お礼は何がいいかしら」
「焼き菓子などでいいだろう。持ち帰りをしやすいしな。……俺も一緒に考えよう」
いつもどこが強引な未来の義姉に感謝しつつ、サミュエルはレオノアの手を握った。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
なお、レオノアは恋愛にそもそも興味がないのでまったくそんな考えないです。がんばれ。