32.いつまで
カロリーナに手を引かれたレオノアはそのまま部屋に連れ込まれた。可愛らしい家具の揃った部屋にはベッドが二つ設置されている。
きょろきょろとしていると、「荷物はこっちに置くといいわ」と言われて、その通りにした。じっと自分を見つめているカロリーナに「どうかしましたか?」と尋ねると嬉しそうに「可愛いな、と思って!」なんて言われるから照れてしまう。
「わたくし、末っ子だから弟、妹という存在に憧れていたの。姉さまたちには可愛がっていただけたけれど、それとこれとは違うじゃない?サミーくんがいるからこのままトトと結婚したら弟はできるのだけど、やはりね、年下の女の子を飾り立てる喜びも捨てがたいというか」
ろくろを回すような手つきでそんなことを言うカロリーナは、キラキラした目でレオノアを見つめていた。
サルバトーレの婚約者ということは悪い人間ではないと理解しているが、勢いが強くて
押されっぱなしだ。
「ということで、明日のコーディネートは任せてね」
パチンとウインクを決めるカロリーナに手を握られて、おずおずと頷く。
サミュエルと遊びに行く話をまだ彼女にしていない、ということにはまだ気が付いていなかった。
そして、しっかり未来の義妹候補としてロックオンされていることにも気が付いてはいなかった。
レオノアが手のひらでころっころ転がされているころ、サミュエルはジト目で兄を見ていた。
「カロリーナ嬢のご機嫌取りにレオノアを使っただろ」
「そうだよ。君たちの行動で利益が出たことは事実だけど、危ない橋を渡ったこともまた事実……よくもまぁ、こんな事情を抱え込んだ子を拾ってきたものだ」
「拾ってない」
サルバトーレは呆れた目を向ける。弟の感情の揺れについては、本人よりも見ている周囲の方が気づいているだろう。だから、周囲は協力した。幼い頃から、才能故に友人すらなかなかできなかった彼のために。
(彼女自身はおおむね良い子だけれど)
レオノア自身は不遇な人生を送ってきたはずなのに、前を向き、自分で新たな人生を踏み出すことができる強い少女だ。だが、どこかおかしな部分も感じる。調査結果だって、きれいなものだった。なのに、ぬぐい切れぬ異常な感覚は何なのか。
サルバトーレ個人としては好感を覚えている。だが、抱え込んで無事に済むかを考えるとどうも疑念が残る。
「それならば、いつまで構うつもりだ」
そう問われて、サミュエルは言葉を詰まらせた。
レオノアは同類であると同時に、守らなくてはならない女の子だった。彼女が強くなることは理解している。だが、まだそうではない。
強くなったとして、自分はレオノアを手放せるか。そう自問自答しても答えは出ない。
「わからない」
「そうか。だが、よく考えることだ。互いのためにね」
兄が何を気にしているのか。サミュエルにはわからない。
ぎゅっと握りしめた拳を開くと爪の跡がくっきりとついていた。
しばらくすると、食事ができたという連絡が来て、食堂へと向かう。すると、カロリーナがせっせとレオノアの世話をしている。困惑しながらも受け入れている彼女を見ていると、何かもやっとした。
「サミュエル!」
助かったとばかりのホッとした表情を向けられて、サミュエルは苦笑した。
隣に行って、声をかけると彼女は笑顔を見せるのだ。
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