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30.夏季休暇が終わるころ


「もう王都行かない……エリーとここでもっと遊ぶ……」

「姉ちゃん、毎回これやるの?」



 サミュエルがレオノアを迎えに来ると、彼女は弟を抱きしめて駄々をこねている真っ最中だった。母親に「ダメかしら」と真顔で聞いているあたり、本気で離れたくなさそうだった。



「レナもこう言っているわけだし……」

「アンタ、法律だよ」



 ジャンまでそんなことを言い始めて、エラは苦笑した。彼らだって愛娘を手放したくなかった。だが、魔力を暴走させる危険がある以上、学園に通わせない選択は取ることができない。彼らがシュバルツ商会ほどでなくても非常に裕福な家庭であれば手元に置いて家庭教師を雇えたかもしれないが、レオノアの家族は本当に普通の平民だ。そんな金銭的余裕も伝手も存在しない。



「レオノア」

「サミュエル、来ていたのね」



 声をかけられたレオノアは、さすがにこれ以上はダメだと判断したのか素直に別れた。今度はエリオットの方が少し寂しい気持ちになった。

 レオノアたちを乗せて馬車が走り出す。



「姉ちゃん、次はもっと遊ぼうね!」



 大きな声で叫んで、エリオットは大きく手を振った。それに応えるようにレオノアも馬車から手を振った。

 その正面でサミュエルは若干不服そうにしていた。



「坊ちゃん、大人げないですよ」

「ふん……」



 そんなサミュエルの様子を見て不思議そうな顔をするレオノアに同行していたセバスチャンが苦笑する。



「私、何かしちゃったかしら」

「別に……。なんか、もやっとするだけ」



 そんな彼によくわかっていない顔をするレオノアは「お腹でも空いているのかしら?」なんて思った。ただのやきもちだとわかっているセバスチャンは素直でないサミュエルに呆れる。



「そうだ、後始末をしてくれてありがとう。おかげであの不快な人、夏季休暇中は見なかったわ」

「それはよかった。まぁ、君に構っている暇なんてなかったのだろうね」



 悪い顔で笑うサミュエルに「まぁ、とても楽しいことが起こっていたのかしら?」とレオノアが尋ねる。

 嬉しそうなレオノアを見て落ち着いたのか、サミュエルはガルシア家の顛末をかいつまんで説明した。


 アマーリアの伯父であるヴァーノン・ガルシア侯爵令息は元々、息子であるエイダンとは別に娘のポーションや呪いを解く神官を探していた。だが、それはガルシア侯爵の妨害によってうまくいってはいなかった。それがエイダンのおばばへの執着の原因にもなっていたのだろう。

 すでに親子での対立は大きく、修復できないくらい双方の溝は大きかった。それゆえにサミュエルとセバスチャンは彼が背中を押す存在があれば、父である侯爵を蹴落とすだろうと判断した。



「だから、君が用意してくれた指輪を彼にくれてやった。早かったよ、侯爵がその地位を落とすのは」

「元々、古くからいた使用人には酷く嫌われていたようです。ヴァーノンが資格を得たと同時に水を得た魚のように動き始めましたよ。さすが侯爵家。いい使用人が揃っておりましたねぇ」

「大事なものを失ってからでは遅いがな」



 その動乱に合わせて、不正をしていた資料やつながっている人間のリストを持ち出して王都に送り付けていた。その効果は大きく、しばらくガルシア家は火消しに必死だろうとサミュエルは楽しそうに言った。



「爵位を落とされる可能性もありますね」

「赤を擁立してこその侯爵家だったんだ。自ら手放したのだから仕方のない話だとは思わないか」

「そう。何もかも失ったのね、あの男」



 晴れやかなレオノアの表情を見て、「そうだ」とサミュエルは頷いた。

 いい気味、と呟いた唇はゆるりと弧を描いていた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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