表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/161

28.解呪のポーション


 続けて解呪のポーションに着手しようとしたレオノアだったが、サミュエルに「もう遅い、風呂に入って寝ろ」と錬金釜を没収された。そのまま使用人に浴室まで連れていかれて丸洗いされたレオノアは、布団に入って三秒でスヤァと眠りについた。本当に早かった。

 翌朝、すっきり目覚めたレオノアはやはりサミュエルと朝食を取っていた。



「そういえば、ガルシアのバカ孫、お前が消えてキレていたらしいぞ」

「そうなの?」

「家にも帰っていないことを知って今慌てているらしい」

「サミュエルに会っていなかったらそういうこともあったかもね」



 二人して「想像力が足りない」と顔を顰めた。女の子を連れまわして放置するとどうなるか本当に理解していなかったようだ。幸いにも、家族はシュバルツ商会からの連絡を受けているので本当に心配しているわけではない。だが、領主一家に対する怒りを感じてはいるらしい。



「本当に人の言うことを聞かない方ね。これで懲りてくれればまだマシだけれど」



 レオノアの面倒だという気持ちがにじみ出た言葉にサミュエルは苦笑する。

 それでも解呪のポーションを作ろうとしているのは単純に厄介ごとから逃れたいという気持ちと、これから起こる出来事によって祖父の力を思いきり削いでやろうと考えているからだ。いとこだからと情はない。そもそも、他人としてしか会ったことがない人間にそんなものを持てるはずがない。



「妹を助けようと必死なのはわかるが、やり方が無理やりすぎる。その父親は人をやって別の地域から購入をしようとしたようだが、例の爺の邪魔が入って失敗しそうだな」

「……まぁ、嫌なお話だわ」



 レオノアは更に不機嫌そうな表情になる。複雑な心境だった。捨てられた時、親族は誰も彼女を助けなかった。助けてくれる人のいない子どもがいないのはよかった。けれど、胸のざわめきの理由まではわからなかった。



(私も、今の両親に愛されているから全てが許せる、という人間ではないのね)



 むしろ、そこまで行くと人が良いというだけで終わるものかわからない。レオノアはそう思いながら手に持ったカップを置いた。



「早く終わらせてしまいましょう。こんな不快な出来事にずっとかかわっているなんて嫌だわ。これを作れば、あとは本当に帰ってしまっていい?」

「いいよ。俺が処理しておく。君がそこまで心を砕く必要はないさ」



 サミュエルの不敵な笑みを見たレオノアは安心したように力を抜いた顔を見せた。「頼りになるわ」と愛らしく微笑んだ彼女にサミュエルにも気合が入る。



「それでは、そろそろ始めましょうか」



 そう言うレオノアの前に、サミュエルが錬金釜を用意する。材料を机の上に置いたレオノアは「本当はおばばに頼んだ方がいいと思うのだけれど」と言って腕を組んで苦笑する。



「あの様子では絶対に嫌がると思うの。実際、私だって嫌だし」



 すでに作っておいた液体を取り出して、それを瓶ごと錬金釜に入れた。これは、

フロード草という薬草をすり潰し、煮だしたものに光属性の魔力を注いだものに月光を当てることで作られる聖水。それから、光属性を持つ魔物が落とす『白輝石(はくきせき)』というアイテムを使用する。

魔物なのに光属性とは、とレオノアは思っていたけれど、人間にだって闇属性魔法があるのだからあくまでも魔力としての特性の話かと割り切った。

 その二つを入れた錬金釜に魔力を通すと、すぐに赤い光が散った。



「できたわ」

「もうか?」

「一番時間のかかる聖水の製造が終わっているのだから、こんなものよ。レシピだって一般に出回っているのだし」



 そう言って肩を竦めるレオノアだが、本来はそれでも相当に苦労して身に付ける技術だ。もうこれは才能に恵まれている、ということなのだろう。

 取り出した瓶の中には乳白色の液体が入っていた。レオノアは魔眼を発動させて頷いた。成功していた。

 それをサミュエルに渡すと、「せいぜい、ふっかけてやりなさい」といたずらっぽくウインクする。



「それもいいな」



 共犯者たちが望むのは無垢な令嬢の無事な姿ではないのだ。やられたことを考えれば、それを『悪いこと』だと言える人間がガルシア家のどこにいるというのだろうか。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ