25.血涙石
すぐに隠れて作戦を練ろうとしたレオノアだったが、サミュエルは魔物の話を聞いてメェちゃんの頭に何かを括り付けた。
「思いきりいけ」
「メェ!」
役に立ちたいと思っているのか、メェちゃんは鼻息荒く走っていた。レオノアが「いいの?」と聞こうとした瞬間にピカッと赤い光が散った。足音はまだ続いている。次いで、鈍い音がする。
「うん、終わった」
「終わった……!?」
現場を覗いているサミュエルがそう言って頷く。レオノアも急いで先を見ると、石化したラミアがいた。こうなっては素材にもならない。
「……石化の魔眼を持っているからって、石化に耐性があるわけではないのね」
「人間だって魔法を使うが、魔法が効かない体質の人間などそうはいないだろう」
「確かに」
レオノアは納得して石化したラミアを見つめる。不気味だった。
「早く採掘してしまいましょう。……これね」
「なるほど。少し離れてくれ」
サミュエルの指示に大人しく従うと、「ダークスピア」という声と共に黒い槍のような魔法が放たれた。的確に血涙石の周囲を抉り、コロンとそれは転がった。彼は血涙石を拾うと「ほら」とレオノアに投げてよこした。
「それは例のところに入れておけ。ポーチに入れてある魔石はどれくらいだ?」
「それなりに多いわ。ほら」
レオノアはポーチを開けてサミュエルに見せる。すると、「半分……いや、六割くらいは最低でも奪われる想定をしておけ」と言われてきょとんとした。
「なぁぜ?」
「おそらくは『入場料』といって持っていかれる。ガルシア領の魔石は良質だが、冒険者があまり集まらない理由だよ』
「さ、最悪……!!やり方が汚いわ」
ムッとして頬を膨らませるレオノアにサミュエルは苦笑した。ぷくっとした頬を突っついて、「そのおかげで好き勝手できただろう?」と血涙石を採掘した場所を指さした。それでも、納得できないと顔に書いてある。レオノアは存外わかりやすい性格だ。
(まぁ、あくまで今は何も隠すことがないせいかもしれないが)
才能豊かなレオノアのことだ。貴族として生きていれば感情を気取られることない立派な高位貴族の淑女らしい少女になっていただろう。
「いつか痛い目に遭うわ」
すでに痛い目にあわそうとしているのに、ぷんすこしながらそう言う。
サミュエルは今からやろうとしていることは痛い目ではないのだろうか、なんて少しだけ思ったが、レオノアのやる気をそぐまいと口を噤んだ。
ちなみに結局、子どもであると侮られたせいか八割ほど奪われたので、レオノアは「もう!もう!なんなのここ!!二度と来ないわ!!」と再度怒りを爆発させるはめになった。
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