20.帰郷
ついに夏季休暇になった。
レオノアは荷物を抱えて、元気いっぱいだった。一週間も馬車に揺られるのはレオノアにとっても少々辛くはあったが、行きほどではない。
行く場所は王都ではなく家だし、馬車の質がそもそも上がっている。そして、良い馬車に乗れた理由はサミュエルだ。
「たまたまガルシア領の支店に行こうと思ってたんだ」
サミュエルはそんな言い訳をしていたけれど、レオノアがサルバトーレの顔を見れば、苦笑して首を左右に振っていた。単に一緒に行きたいだけのようだった。
だが、支店があるというのは本当のことであるらしく、彼はレオノアを村の入り口で降ろすと地図を渡してきた。
「何か困ったことがあればここに来い。手紙を持ってくれば俺に通すよう手配しておく」
「親切ね、ありがとう」
サミュエルは満面の笑みを見せるレオノアに満足したように、頷いた。
家に戻ると、弟が「姉ちゃん!」と駆け寄ってきた。
「今の誰!?」
「お友達のサミュエルよ。王都から乗せて来てくれたの。親切よねぇ!」
(それ、流石に下心あるんじゃないかなって僕は思うんだけど!?)
レオノアは頭を抱えている弟エリオットに「ただいま」とほほ笑みかける。だが、エリオットはさらに頭が痛くなった。
(姉ちゃんって天然……!)
彼は自分の姉レオノアが非常にモテることを知っている。けれど、レオノアは異性に頼ることも甘えることも無かったし、避けてもいた。どちらかと言えば警戒心が強い方だと思っていたが、勘違いだったかもしれない。
(姉ちゃんは、僕が守らないと)
そう決心したエリオットだが、レオノアの「お土産を買ってきたの」という声で一気に吹き飛んだ。「わーい!」と大喜びの弟を見てレオノアもにっこにこである。この笑顔をみるために働いてきたのだ。
「お父さんとお母さんは?」
「父ちゃんは森!母ちゃんは織物してる」
お菓子を抱えて「家に置いて来る!」と駆けていく弟に「転ぶわよー」と声をかける。そして、彼女はゆっくりとその後を追いかけた。
(王都に戻りたくなくなるわねぇ)
弟の後ろ姿を眺めながら、そう思う。
元々、関わりたくない人たちが多い場所に、仕方なく通っている面もあるので仕方がない。そもそも、彼女は家族が大好きなので村から出たくないのだ。
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