17.試験終わり
それから三週間後。
試験の結果が廊下に貼り出されていた。その結果を見たレオノアは酷くがっかりした。
レオノアは五位であった。努力が報われたと考えるべきか、貴族子息のレベルが低いと考えるべきか。少なくとも彼女は、このような上位に入ることができるとは考えていなかった。
周囲に人は少ない。いても数名だ。学園の授業内容くらい、ほとんどの貴族は家で習っていると聞く。学園の勉強よりも家や領地のことに関する勉強を優先しているのか、はたまた本当にやる気がないのか。競い甲斐がないというものだ。
(一位がルーカス殿下、二位がデイビス公爵令嬢……。やっぱり、上に立つ人間というのはそうでなくては)
二人ともほぼ満点だ。
そして、下の方の順位でマリアの名前を見つける。
(あの子、侯爵令嬢なのに跡を継ぐつもりも、同等以上の家格に嫁ぐつもりもないのかしら)
だとすれば、なぜアマーリアを追い出したのだろうか、と不思議に思う。
何も考えていなかった、なんてことはないだろう。そうは思うけれど、この結果をみると何とも言えない。
関係がないはずなのについ見てしまうのは、やはり少しくらいは恨みを持っているのだろうか。レオノアは自嘲するような表情を浮かべた。
試験の結果が出たのでレオノアは寮に戻ってから着替え、冒険者ギルドへと向かった。
レオノアはそこでルカ、ウィルと合流した。三人とも冒険者ランクが最低のFからEに上がっていた。そのことでダンジョンへの入場する権利が手に入った。
(いつ入るかはルカたちと相談してから、かしら)
一人でダンジョンに行く、なんて危険なこともしたくはない。ケガをして家族に心配をかけるのも、勉強が遅れるのも困る。冒険者活動はあくまで生活費とお小遣い稼ぎのためにやっていることだ。本来のやりたいことをおろそかにしてまで危険を冒す必要はない。
(夏季休暇までにお土産買えるくらいにはお金を貯めたいわね。エリオットに王都のお菓子も食べさせてあげたいし)
レオノアはブラコンだった。
夏季休暇は両親と共に畑を耕しながら、課題を頑張る予定だ。それに関するものだって買って帰りたい。興味関心があるものに関して、彼女は真面目だった。
翌日、久しぶりに会った二人がなんだか疲れ果てていたので、「どうしたの」と聞いてしまった。
「ちょっと人の話を聞いてくれないタイプの人間に捕まっちゃったんだよ」
「そうそう。顔だけは良いのにあの性格じゃあな」
(女かしら……?)
顔の良い男の可能性もあるか、とレオノアが考えていると、「誰がアレを好きになんてなるものか」とルカが珍しく苛立ったような声で呟いた。やはり女らしい。とはいえ、十二、三歳でそんなに厄介な女なんているのだろうか。そう首を傾げたが、マリア・ハーバーみたいな関わりたくないタイプの人間を思い出して納得した。
(顔の整っている子は大変ねぇ……)
レオノア自身は学園に通う周囲が自分に興味がないのを知っているので気楽なものだ。貴族というのは、一部を除いて本当に平民に興味ない生き物だ。もう少し上の学年になると、色気づいて『女』に興味が出てくる人間も現れると教師たちは渋い顔をしていたが。
結婚相手としては考えられなくても、替えの利く遊び相手としては需要があるらしい。しかも、よほど魔力が高くない限り、相手は妊娠に耐えられない。だから、子が生まれる可能性も限りなく低い。嫌な話を思い出した、とレオノアは少し渋い顔になった。
「けれど、ルカがそんなに腹立たしそうにしているのも珍しいわね?いつも、何を言われたって飄々としているのに」
「誰にだって首を突っ込んで欲しくない話題があるだろう?」
「俺もピンポイントで触れられたくない話題出されるから気が滅入るんだよな」
「そういう方なのね」
付き合いたくない相手だな、という三人の意見が一致した。
「お前は、あまり異性に興味がなさそうだな」
「そうでもないわ」
「ふぅん。どんな男がいいわけ?」
やけに突っかかってくるウィルに、レオノアは可憐に微笑んだ。
「私のために、全てを捨てられる人」
ルカとウィル、二人が息を呑む。その様子を見て、レオノアは「冗談よ」とまた笑い声を零した。
そして、二人を置いてギルドへと向かっていくレオノアを急いでおいかけた。
なぜだろうか。
二人には、さっきの言葉がレオノアの本音だと思えてならなかった。
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