35.めでたし、めでたし
そして、サミュエルは本当に最短距離で突っ走ってきた。
レオノアと一週間ぶりに再会したサミュエルは、女神アウローラへの怨嗟の声を吐きながら彼女を抱きしめ、満足すると同時に跪いて「帰ったらすぐに結婚しよう」と求婚した。
「黒……あまりにもムードがなさすぎないか」
「こいつの告白に比べればマシだ」
レオノア自身は「本当に飛んできてくれた上に、求婚してくれるなんて」とときめいていた。そんなレオノアを見たローガンはもうどうにでもしてくれというモードになった。意味のわからないカップルに突っ込んでも面倒なだけだと彼の勘が告げていた。
「結婚は良いのだけれど、戻るのって結構大変よねぇ」
「そうだな。どうせだから、君の欲しがっていた素材などを手に入れながら戻るか?」
「あら、楽しそう」
すっかり旅行モードになりつつある二人に、「じゃあ、俺はさっさと行くよ」と手を振って離れようとしたところ、彼はサミュエルに腕を取られていた。
「ついでだから、エデルヴァード帝国に連れて行こう」
「そうね。ロンゴディア王国貴族たちで悪いことをしていた方々の無様な姿が見れるものね」
文句を言おうとしたローガンだったが、レオノアの言葉に彼はうっかり興味を持ってしまった。
自分の親族がやらかしていたことも知っているので、かなり見たい。
「……どのルートを通る?」
ローガンの言葉に、レオノアたちは顔を見合わせて笑うと地図を取り出して話し始める。
どうしてか、一緒に旅をするのも悪くないと思えた。
「そういえば、あの後どうなったの?特に女神」
「アストラ神によって排除されていた。王族はルーカスを除いて処刑されることになりそうだ」
「殿下にも何かありそうだと思っていたが」
ローガンが意外そうにそう言うと、サミュエルは溜息を吐きながら「まぁ、代償はあるさ」と肩を竦めた。
「ルーカスが王を継ぐことで国としては残る……が、代わりにケイトリン殿下を王妃とするのが条件のようだ」
そして、彼はそれを呑んだ。愛した国を守るために、立て直すためにそれが必要だと知っていた。
今のルーカスに足りないものは多い。それを補う意味もあり、実質的にエデルヴァード帝国がロンゴディア王国だったものを支配するための婚姻ともいえるだろう。
「皇女が嫁入り、となれば口を出す理由も生まれるか」
「すでに王家も一部貴族も、その有り様が国民に知られているからな。エデルヴァード帝国の介入はむしろ歓迎されているようだ」
どんな国となっていくかはこれからの彼ら次第である。
すでに家族ごとエデルヴァード帝国に移住しているレオノアとサミュエルにとっては、もうあまり興味のないことではある。友人が頑張るようだから、求められれば少しくらい力は貸すつもりだが、それくらいのものである。
その後、レオノアたちは無事にエデルヴァード帝国に戻った。
デレクの即位前日であったため、カイルには「もう少し早く帰ってきたなら手伝わせたのに」と文句を言われたが、同時に無事を喜ばれた。
「無事に帰ってきて、めでたしめでたし。というやつね」
大好きな家族と恋人、友人が側にいて、仕事も順調だ。
死にかけた嵐の日に侯爵令嬢であるということは変わってしまったが、手に入れたものを考えるとそれでよかったのだとレオノアは思う。
(『悪役令嬢』とやらから退場させてくれたことだけは感謝すべきかしら?)
決して善人とはいえぬ彼女はそんなことを考えながら笑みを浮かべた。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
こちらで最終話となります。
また、他の物語でもお会いできますと幸いです。